平成30年度(昨年) 一橋ロー再現答案 刑事訴訟法
- 小問1について
- 第1審判決が「当事者の訴訟活動を基礎として形成されている」という点は,いわゆる当事者追行主義をいうものと解される。当事者追行主義とは,審判者による被告人の弾劾というものではなく,訴追者対被告人という二当事者の対立を基礎として,両者による主導的な訴訟追行を確保する考え方である。これは第1審において次のような諸制度が採用されていることに基づくと考えられる。
- まず,刑事手続の契機となるのが,捜査機関による捜査活動の開始である(189条2項)。そして,司法警察職員ないし検察官が捜査を行い,犯人の確保及び犯罪の証拠収集保全を行った上,訴追者たる検察官(247条)が,その起訴不起訴の判断をした上で(248条),検察官が作成する起訴状により公訴提起をすることになる(256条1項)。一方で,被疑者においても,弁護人を選任し(憲法34条前段,法30条1項),接見(39条1項)を通じて当該弁護人の助言,指導を下に防御の準備等を独自に行うことができる。
- そして,公判手続も,まず検察官が起訴状を朗読することから始まる(291条1項)。これは,公判手続たる刑事訴訟における審判対象たる訴因の特定をするために行われるものである(256条3項参照)。その上で,被告人に対し黙秘権を告知した上で,弁護人を含めて陳述の機会が与えられ,当事者の主導により争点が形成されていくことになる(291条4項)。
- 次に,証拠調べ手続も,これは検察官、被告人又は弁護人によりなされる(298条1項)。そして,その際検察官による冒頭陳述により証明すべき事実が明らかにされる(296条本文)。他方,あくまで,裁判所の職権の発動は,補充的なものにとどまる(298条2項)。そして,証拠調べの範囲も,これは裁判所の主導ではなく,やはり検察官及び被告人又は弁護人の意見を聞いた上で定められる(297条1項)。
- さらに,証拠調べが終了した際も,検察官が事実及び法律の適用について意見を陳述し,いわゆる論告求刑を行うことになる(293条1項)。そして、これに対して弁護側が意見を述べることになる(同条2項)。これを踏まえ,最終的に裁判所が判決を下すことになる。
- このように,第1審手続においては,当事者を主導として判決の基礎が形成され,他面裁判所は中立的な判断者たる地位に純化されるのである。このような訴訟制度から,当事者追行主義が裏付けられる。
- 小問2について
- 直接主義とは,裁判所の面前における証拠調べを経た証拠を通じた事実認定を基礎として判決がされるべきとする原則をいう。口頭主義とは,訴訟手続についてこれを口頭により行う原則をいう。
- これは,それぞれ次のような条文において具体化されている。
- まず,直接主義については,公判手続の更新である(315条) 。これは,公判において判断者たる裁判官が替わった場合に,それまでの公判手続において現れた訴訟資料について,これを引き継ぐための手続である。
- 本来,当該公判手続における判断者は,当事者が提出した証拠をその面前において直接取調べこれにより心証を形成した当該裁判官が判断すべきことを要求している。これが,直接主義の要請するところである。もっとも,その判断者たる当該裁判官が除斥等により交代すべき場合には,公判手続を維持する必要性に配慮し,直接主義の要請をも確保する必要がある。そのため,直接その面前でなされた証拠調べを引き継ぐ必要が生じる。このように,公判手続の更新は,直接主義の1つの表れである。
- 口頭主義については,証人等の人的証拠の証拠調べの方法として,証人尋問が採用されていることにあらわれている(304条1項)。これは,証言すなわち供述証拠というのは,およそその文言すなわち文面だけでなく,供述者の供述の際の言動態度等の観察を通じた全体として,その信用性等を判断し,証拠力ないし証明力評価を図るものである。そのため,人的証拠の証拠調手続においては,証人尋問という口頭による方法が採用されているのである。もっとも,これは直接主義の要請も含んでいると思われる。
- 小問3
以上