主:それでは,始めます。これから事案を読み上げます。手元にあるパネルを見ながら,聞いていてください。あなたは,弁護士Pです。Xから次のような内容の相談を受けました。 |
はい。 |
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主:本件土地は,かねてから私の父であるAが所有しており,Aの祖父,父から代々受け継いできた土地です。私は,Aが死亡したため,本件土地を相続し,現在所有しています。(ここから,ごちゃごちゃ書いてあったが,主旨はXが本件土地をどうにかこうにか利用しようとしていたということだった。)ところが,本件土地を見に行ったところ,Yが本件土地上に資材を置いて,勝手に占有していました。私は,無断で人の土地を使って資材置き場にしているYが許せませんので,即刻明渡してもらいたいと考えてます。ここまでよろしいですか? |
はい。 |
土地に関する紛争か。物権的請求権…,あと相続も絡んでいる。相続の要件事実どうだったかな。 |
主:Xは,Yに対して,本件土地の返還を求めて訴えを提起しました。まず,XのYに対する訴訟における請求の趣旨を言ってください。 |
はい。(区切りながら)被告は,原告に対し,本件土地を明渡せ。 |
サクサクいこう。 |
主:はい。そうですね。では,訴訟物は,どうなりますか? |
はい。所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権です。 |
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主:はい。そうですね。では,今言っていただいた訴訟物について,要件事実,あ,一般的な要件事実を仰ってください。 |
はい。えと,Aの本件土地のもと所有,Aが死亡したこと,XがAの子であること,(遮られる) |
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主:えっとね,「一般的な」要件事実を言ってくれればいいですよ。 |
あ,はい。えと,被相続人のもと所有,被相続人の死亡,(遮られる) |
あ,そっか。 |
主:んーとね,それは本件での要件事実だから,一般的な言い方で。 |
はい。一般的に,…えと |
一般的?どういうこと? |
主:相続したことって,どうして主張立証するの? |
はい。所有権の取得原因事実となるからです。 |
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主:そうすると,所有権取得原因事実って,一般的に相続でないといけないのかな? |
いえ,そうではありません。…あ! |
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主:はい,どうぞ。 |
はい,すみません,失礼いたしました。えっと,一般的な要件事実は,原告が目的物を所有すること,そして被告が目的物を占有すること,です。 |
そかそか。一般的ってそういうことね。 |
主:はい,そうですね。それで,あなたは先ほどXがAを相続して本件土地を取得したという内容の要件事実を挙げていましたが,これは本件でのものということですね? |
はい。そうです。 |
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主:うん。では,所有権に基づく返還請求を主張する場合,いつの時点での所有権を主張立証することが必要なんですかね? |
はい。えと,一般的には,権利自白が成立する時点での所有権を主張立証します。 |
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主:はい,そうですね。本件では,どうですか? |
はい。えと,…(パネルを見ながら)本件では,Yが現在のXの所有を認めていれば,Xとしては,現在の時点での本件土地の所有を主張立証します。 |
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主:はい,そうですね。現所有ですね。そして,Yが現所有を争う場合は,Xとしては,Aから本件土地を相続により承継取得したという事実を主張立証しますね。 |
はい。そうなります。 |
あ,全部仰って下さった。 |
主:わかりました。では,少し事案を変えます。よく聞いていてください。Xが本件土地の様子を見に行った際,Yは,資材置き場として占有していましたが,さらに重機を搬入して,資材を組み立てて本件土地上に何か建物を作ろうとしている様子でした。ここまでよろしいですか? |
はい。 |
これはまさか,保全か? |
主:では,あなたは,Xの代理人Pとして,Yに対する本件土地の明渡請求訴訟に先立って,どのような手段を講じておくことが考えられますか? |
はい。所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権を被保全権利として,…仮処分の申し立てをします。 |
処分禁止?占有移転禁止だっけ?いや,二つとも違うよな… |
主:はい。どのような仮処分の申し立てをしますか? |
はい。えと…,占有移転禁止の仮処分…です。 |
んー,とりあえず言ってみよう。 |
主:えと,Y自身が重機の搬入とか,組立とかをしようとしているという状況です。 |
はい,えと…,民事保全法の規定にありますが…, |
やべ,ど忘れした。 |
主:んー,Xって,Yに対してどんなことを言いたい? |
はい,Yが重機を搬入し,本件土地上に何か組立作業をすることをやめることを求めます。あ!差止請求です。 |
思い出した。 |
主:はい。そうですね。差止の仮処分ですね。これは,いわゆる仮地位仮処分ですね。 |
はい。そうです。 |
めっちゃ頷いて,思い出したんだよアピール。 |
主:はい。それでは,またここで事案を変えます。Xは,Yに対する本件土地の明渡請求訴訟を提起しました。そして,口頭弁論期日が進んでいましたが,ある日,相手方であるYが死亡してしまいました。ここで,Xの代理人であるあなたは,どのような手続をとりますか?あ,なお,Yには訴訟代理人がいなかったとします。 |
はい。Yの相続人に対して,受継の申立をします。 |
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主:はい。そうですね。受継の申立をします。 |
はい。 |
次はなんだろう。 |
主:では,事案の続きになりますが,その後,XのYに対する請求が認容され,その後判決が確定したとします。しかし,Yは,本件土地を一向に明渡そうとしません。そこで,Xの弁護士としては,Yに対してどのような措置を講じるべきですか? |
はい。確定判決により取得した債務名義に基づいて,Yに対して強制執行をする手続を行います。 |
執行か。そしたら,次は執行方法のこと聞かれかも。間接強制か。代替執行は無理だったような… |
主:はい。そうですね。では,執行手続の申立を行う場合,どこの裁判所に対して申立をしますか? |
はい,えと…,(5秒くらい固まって)確定判決がされた裁判所…です。 |
そっちか!執行の管轄かよ…なんだっけ。 |
主:ということは,判決が上告審で確定した場合は,最高裁判所に申立てをすることになるということかな? |
いえ,そうではありません。えと…,地方裁判所なのですが, |
そうだよな。最高裁は絶対にないはず。どこだっけー |
主:どこの地方裁判所? |
はい,えと…(5秒くらい固まって),本件土地のある…,地方裁判所,だと思います。 |
たぶんこれ。違うのであれば,どうか誘導してください。 |
主:条文には何て書いてある? |
はい。えと…,法文を参照してもよろしいでしょうか。 |
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主:(笑顔で)いいよいいよ。 |
はい。失礼いたしま(遮られる) |
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主:あ,いや,開かなくて大丈夫です。後で,確認して復習しておいてください。答えもそれで合ってますので,安心してください。 |
はい。かしこまりました。ありがとうございます。 |
ほっ。 |
主:はい。それでは,次のパネルにいきます。手元のパネルを裏返してください。 |
はい。 |
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主:今度は,あなたは,Y側の弁護士だったとします。そして,Yから次のような内容の相談を受けました。 |
はい。(パネルを見ながら) |
これは取得時効…てことは,それに基づく所有権喪失の抗弁,あと売買もしてるのか。 |
主:私は,Aとは旧知の友人で,本件土地を20年前に,Aから10万円で購入しました。その際,契約書も取り交わしませんでしたし,現在所有権移転登記もしていませんが,この地域では珍しくないことです。また,土地は非常に安いので,固定資産税について支払をする必要がないものでした。私は,以来,本件土地を駐車場として利用していたほか,資材置き場としても利用していました。ところが,Xが突然私に,本件土地は自分の物であることを主張して,明渡を求めてきました。私としては,これに応じるつもりはありません。ここまでよろしいでしょうか? |
はい。 |
事情が多いな… |
主:では,Yの代理人である弁護士としては,訴訟において,Xの請求に対してどのような主張をしますか? |
はい。Yは,本件土地を20年間占有していますので,時効取得を原因とする所有権取得を主張して,所有権喪失の抗弁を提出します。 |
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主:はい。時効取得を原因とする所有権取得による所有権喪失の抗弁ですね。他には? |
はい。えと…, |
あれ?他にあったっけ? |
主:事案の最初の方に,よりシンプルなものがありますよね。 |
はい。えー, |
おっと,なんだっけ。 |
主:アの記載を見て,考えてみて。 |
はい…,あ!えと,YがAから本件土地を10万円で購入しているとのことなので,売買契約に基づく所有権取得を主張します。あ,これも所有権喪失の抗弁になります。 |
そうじゃん!さっき浮かんでたのに忘れてた(笑) |
主:そうですね。その抗弁も考えられますね。ちなみに,両者の関係は? |
それぞれ,別個独立の抗弁として位置づけられます。 |
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主:はい。その通りです。では,この売買契約に基づく所有権取得による所有権喪失の抗弁についてですが,Yは,売買契約について契約書等を作成していなかったということですね。あなたは,Yの当事者尋問以外で,どのようにYA間の売買契約の事実を立証しますか? |
はい。えー…(パネルを見ながら),この地域では,土地の売買契約の際に契約書を作成せずに行ったり,所有権移転登記をしないことが珍しくないとされていた点から,このような慣行?慣習を情況証拠として立証していきます。 |
なんかとりあえずこれがぱっと思いつくけど… |
主:はい。他にないですか? |
はい。他には…,そうですね, |
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主:Yの手元にありそうな資料とかで,使えそうなものが考えられませんか? |
はい。えー…,Yの預金通帳があります!10万円という額だと,現金決済,口座引き落としの両方がありうるかと思われますが,いずれにしても,通帳を提出することにより代金の変動があると,情況証拠になります。 |
誘導だ!なんだろう,手元にある資料か…, |
主:はい。預金通帳もありますね。他には? |
はい。他には…, |
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主:他にも手元にあるものがありませんか? |
はい…,手元にある物… |
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主:領収書とかってどうですかね? |
はい!契約書はなくても,領収書なら,売買契約をした事実の情況証拠になります。 |
そうじゃん。何で浮かばなかったんだ。悔しい。 |
主:そうですね。そのようにして,売買契約の主張立証をしていくことになりますね。 |
はい。 |
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主:では,次に時効取得を原因とする所有権取得による所有権喪失の抗弁についてですが,要件事実を言ってくれますか?あ,先ほどと同じように,一般的なもので。 |
はい。ある時点での占有,現在の占有,そして(遮られる) |
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主:ある時点での占有っていうのは? |
あ,えと,占有を開始した時点での占有です。 |
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主:うん。それで? |
はい,そして現時点での占有と |
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主:うーんと,現時点での占有というと? |
えと,本件では,20年の期間の占有を主張すると思われますので… |
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主:うん,それはつまり,占有の期間は何年? |
20年です。 |
何を聞きたいんだろう,主査は。 |
主:そうすると,現時点での占有を主張する必要はあるのかな? |
あ!いえ,失礼いたしました。えと,20年が経過した時点での占有です。 |
そういうことか。 |
主:はい。そうですね。他には? |
はい。あとは,時効援用の意思表示です。 |
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主:はい。そうですね。他の要件については,どうですか? |
はい,他の要件については,所有の意思,平穏,公然の要件は民法186条1項,20年間の期間の占有継続は2項によって,それぞれ法律上推定されます。 |
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主:はい。結構です。では,今度は,X側としては,Yの時効取得を原因とする所有権取得による所有権喪失の抗弁に対して,どのように反論しますか? |
はい,他主占有事情の再抗弁を提出します。 |
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主:はい。そうですね。この他主占有事情というのは,実体法上どの要件との関係での問題になるのですか? |
はい,所有の意思です。 |
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主:うん。そしたら,所有の意思の判断について,判例はどのように言っていますか? |
はい。えと,所有者でなければとらない行動をしたり,あるいは所有者であれば当然に取るべき行動をしたかどうかを判断すると言っていたかと思います。 |
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主:うん。つまり,それはどのように判断するということですか? |
はい,えー…, |
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主:例えば,今回で言えばYの意思は考慮するのですか? |
はい,えー考慮しないかと,思います。 |
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主:全く考慮しないの? |
あ,いえ,えー…,基本的には,先ほど申しました通り,所有者でなければとらない行動をしていなかったか,あるいは所有者であれば当然に取るべき行動をしていたかどうかにより判断します。その上で,主観面も考慮することはありうるかと思います。 |
あれ,主観って考慮するんだったっけな…。考慮しないとまでは言ってなかった気が。 |
主:うん。基本的には,外形的客観的に判断するんだよね。 |
あ!はい,そうです!外形的客観的に… |
キーワードが出てこなかった… |
主:はい。では,さらに事案を追加しまして, |
はい。 |
まだあるのか |
主:本件で,AがYに対して所有権移転登記手続に協力することを申し出ていましたが,Yは移転登記手続をしようとしませんでした。また,固定資産税等も,実際に支払っていませんでした。ここまでよろしいですか? |
はい。 |
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主:では,Xは,Yの他主占有事情としてどのような事実を主張立証しますか? |
はい。えー…,Xが登記を移転, |
やべ,一瞬聞いてなかった。 |
主:いやいや。AがYに対して登記の移転を申し出たけど,Yは特に移転登記手続をしていなかったということです。 |
あ,はい。えと,Xとしては,Yが,Aの積極的な所有権移転登記の協力の申出にも関わらず,特に移転登記手続をしなかったことについて,所有者であれば当然に取るべき行動をしなかったと主張します。 |
|
主:はい。他には? |
はい。えと,固定資産税等を支払っていなかったことについて,これも所有者であれば当然に取るべき行動をしていなかったと主張します。 |
|
主:なるほど。それでは,このようなXの主張に対して,Yは何か反論ができますか? |
はい,まず,所有権移転登記をしなかったことは,この地域では土地の所有権移転登記をしないことも珍しくなかったことから,それが所有者であれば当然に取るべき行動をしなかったとまではいえないと反論できます。 |
|
主:そうですね。他には? |
はい。えと,固定資産税等を支払わなかった点についても,本件土地は非常に廉価で,10万円程度のもので負担がなくこれを払う必要がなかったとあります。そうすると,固定資産税等を支払わなかったことが所有者であれば当然に取るべき行動をとらなかったといえないと反論できます。 |
|
主:はい。わかりました。副査から何かありますか? |
|
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副:(首を振る) |
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|
主:それでは,以上で終わります。お疲れ様でした。 |
はい。ありがとうございました。 |
あ,終わってしまった。法曹倫理なかったけど,大丈夫かな… |