H30司法試験予備試験 刑事実務基礎 再現答案

  1. 設問1について
    1.  「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の有無を判断するにあたっては,罪証隠滅の対象,隠滅の態様,隠滅の主観的ないし客観的可能性の有無を考慮要素として判断される。
    2.  本件被告事件は,本件カーナビの窃取及び本件自動車の器物損壊にかかる事件である。本件被告事件において,Aが被疑者とされているところ,乙1号証によれば,同人は,「本件カーナビや鞄を盗んだのは私ではない」などと否認している。そのため,Aの犯人性が問題となる事案である。そして,W2の目撃証言である甲8号証によれば,W2は,犯行当日の平成30年4月2日午前4時ごろ,現場のK駐車場付近において,「黒い上下のウィンドブレーカー」を着た男を目撃したという。そのため,Aと犯人とされる人物の同一性の判断要素となる着衣が,隠滅の対象として存在する。そして,Aとしては,これを棄てるなどによって容易に隠滅することが可能である。
    3.  また,Aは,乙1号証によれば,本件カーナビをW1に売却した経緯について,友人Bから頼まれてしたのであるという。そのため,Aは,本件に関係があると考えられるBという人物が隠滅の対象となり得る上,友人関係から,A及びBが口裏合わせをするなどの隠滅の態様が考えられる。
    4.  そして,本件被告事件は,先述の通り,Aが否認している事件であるから,隠滅の主観的可能性が優に認められる。また,Aの犯人性を裏付ける証拠が,現段階でW2の目撃証言のほかなく,上記黒い上下のウィンドブレーカーがW2の目撃証言の信ぴょう性を高めると考えられ,これを隠滅する客観的可能性が高く認められる。
    5.  以上を総合的に判断すると,Aが罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由がある。
  2.  設問2について
    1.  ①の類型証拠について,W2の目撃証言によれば,4月2日の午前4時ごろに,先述の通り,K駐車場において黒いウィンドブレーカーを着た男を見たという。そして,本件自動車から降りてきた人物について,1秒ほど目が合った上,自動車が通り過ぎる際にも,助手席側の窓ガラス越しに顔を見たので,男の顔を覚えているという。かかる目撃内容から,W2は,面通しにおいて,30枚の男性の写真のうちAの写真である12番目のそれを指摘して,犯人と思しき男性であると供述している。
    2.  そうすると,目撃時の人物の位置関係は,W2が目撃した男の特徴の信ぴょう性について,助手席の窓ガラス越しに男の顔をみたという供述との関係で,W2と本件自動車との近接性の有無が問題となる。また,午前4時頃という夜明け前の時間帯で,W2が視認したウィンドブレーカーの色が,本当に黒色であったかについて,照度によって信ぴょう性が異なる。
    3.  以上から,W2の供述の信用性争い,防御の準備のための必要性を明らかにする。
    4.  ②は,①の内容ないし甲8号証のW2の検察官面前調書と相まって,かかる供述より前にしたと考えられる供述が含まれると考えられる。そのため,W2の目撃証言について,犯人の特徴ないし犯行現場の状況等の証言内容につき変遷の有無,またその内容によって,甲8号証におけるW2の供述内容に矛盾等が存在する可能性がある。ゆえに,②によって,甲8号証にかかるW2の供述の信用性を争うため重要な内容が含まれていると思われる。
    5.  以上の事情から,防御の準備のために必要であることを明らかにすべきである。
    6.  ③について,本件では,W2の目撃証言のみが,Aの犯人性を裏付けるための供述証拠であると考えらえる。そこで,W2以外の目撃証言の有無,そしてその内容が甲8号証にかかるW2の供述と相違する場合は,W2の供述の信用性を減殺する弾劾証拠となる。
    7.  かかる事情から,③が防御の準備のために必要であることを明らかにすべきである。
  3.  設問3について
    1.  かかる手続の段階は,検察官による証明予定事実を記載した書面の開示(刑訴法316条の13第1項)ないし弁護側の意見表明(316条の16)ないし主張関連証拠の開示等(316条の17ないし20)が終了している段階である。
    2.  したがって,所要の手続は,検察官による証明予定事実等の追加(316条の21)である。すなわち,追加すべき証明予定事実を記載した書面の交付(同1項)及び本件CD等の証拠調べ請求(同2項前段)である。
  4.  設問4について
    1. 小問(1)
      1.  かかる検察官主張の立証趣旨は,要するに,本件被告事件における犯人がAであることすなわちAの犯人性であると考えられる。したがって,Aが本件自動車の窓ガラスを割る行為及び本件カーナビを窃取した事実を内容とする供述である場合には,直接証拠にあたる。反面,係る事実を推認させるにすぎない場合は,間接証拠である。
      2.  本件で、W2の供述によれば,W2は,K駐車場において,本件自動車の車内ランプが光っていることに気づき,同車に近付いたところ,5メートルの距離のところで,黒い上下のウィンドブレーカーを着た人物を見たという。かかる内容は,当該男性が,本件自動車の窓ガラスを割ったという事実は含んでいない。他方,車内ランプが点滅していた事実が本件自動車に対して何らかの異常が生じたことを推認させ,かつ直後その男性が慌てて出てきたことから,その男性が本件自動車の窓ガラスを割ったことを推認させるにすぎない。
      3.  また,W2は,男性が車から降りてくる際に,ティッシュペーパーを2つ重ねたくらいの電化製品に見える物をもって同車の運転席側のドアから出てきたことを目撃している。かかる事実から,確かに当該男性が本件カーナビを窃取した事実を裏付けるものと思える。しかし,本件カーナビと,W2が目撃した,ティッシュにくるまれていた中身が一致することが明らかでない。そのため,当該男性が,本件カーナビを窃取した事実は,直接裏付けられず,あくまで甲7号証等から推認されるにすぎない。
      4.  以上より,W2の供述は,当該男性がAであること,当該男性が本件自動車の窓ガラスを割り,本件カーナビを窃取した事実を推認させる事実から,Aが本件被告事件の犯人であることを推認させる間接証拠である。
    2. 小問(2)

 釈明を求めた根拠は,刑事訴訟規則208条1項にある。そして,「Bに加えてW2を尋問する必要性」について釈明を求めた根拠は,次の点にあると考えられる。すなわち,甲10号証のBの検面調書について弁護人が証拠調べ請求に応じているところ,かかる供述内容から,Aがマイナスドライバーで本件自動車の窓ガラスを割った事実及び本件カーナビを窃取した事実を直接証明することができるため,間接証拠にすぎないW2を証人尋問する必要性に疑義が生じた。そのため,裁判所としては,W2を職権で証拠調べする等(法298条2項)の判断をするにあたり,検察官に釈明を求めたと考えられる。

    1. 小問(3)

 W2の目撃証言は,より客観的な第三者による目撃証言である。ゆえに,W2の目撃証言との照合をさせ,共犯者Bの供述を補強する情況証拠として取り調べる必要がある。

  1.  設問5について
    1.  刑事訴訟法上の問題点としては,本件領収書が公判廷における代用書面として,領収書の内容に係る被害弁償の事実の真実性を要証事実とすると考えられるため,伝聞証拠として証拠能力が認められるかどうかが問題点となる。
    2.  弁護士倫理上の問題点としては,Aは否認しており無罪弁護をすべきところ,Aが被害弁償にかかる本件領収書を証拠調べ請求するなどしていることから,誠実義務違反(弁護士職務基本規程46条)にあたるかが問題点である。

                                     以上

評価:A₋(推定)