H30予備試験口述(刑事)

質問 回答 内心の動き
主:これから,事案を読み上げます。聞き逃した点などあったら,遠慮なくいってください。 はい。  
主:Xは,駅前の駐輪場に停めてあったVの自転車を発見し,そのカギを損壊した。そして,Vの自転車に乗り,自宅に乗り去った上,敷地内に駐輪しておいた。翌日,Vは,盗まれた自転車を探していたところ,X方敷地内にある自転車を発見した。自転車には,カギはかけられておらず,外見上V所有の自転車であることが認められた。そこで,Vは,自転車に乗って,同敷地内から乗って帰った。ここまで,よろしいですか? はい。 事案長いな。自救行為の話かな…
主:では,この事案において,Vには,いかなる犯罪が成立しますか? はい。窃盗罪の成立が問題になります。 やっぱりそうだ。でも,答え方どうしよう。ごちゃごちゃ事情があって,ぱっと結論いいにくい。
主:うん。窃盗罪が問題になります。それで,結論として成立するのかな? はい,えー,成立する可能性があるかと思われます。 うーん,どう答えよう。けっこう微妙だな。
主:というと? はい,まず,自転車はX方の敷地内に停めてあったことなどから,Xが事実上占有する状態にあったと考えられるため,「他人の財物」にあたります。そして,Vは,Xに無断で乗って帰っているので,Xの意思に反してその占有を排除して,自己の占有に移転しており,「窃取した」ものといえます。なお,不法領得の意思及び故意も否定されません。したがって,Vの行為は,窃盗罪の構成要件に該当します。そして,(いったん遮られる)  
主:うん。ちょっと,窃盗罪の構成要件を言ってくれる? はい。「他人の財物」を「窃取した」こと,不法領得の意思,そして故意です。  
主:はい。今,他人の財物とおっしゃいましたが,自転車はVの所有物です。それでも,自転車は他人の財物にあたるんですか? はい。あたります。 めっちゃ基本的なことから聞いてくる。
主:なぜですか? はい。窃盗罪において,刑法は,事実上の占有それ自体を保護しています。なので,Vの所有物でも,現在Xが自転車を事実上占有している以上,自転車はXの財物として扱われます。  
主:うん。これって,条文から導かれるの? はい。  
主:どの条文? えと,刑法235条…,「他人の財物」という文言です。 え?どういう意図の質問だ?
主:ん,「他人の財物」っていう文言? はい,えっと,文言上は「他人の財物」つまり所有物と読めるのですが,窃盗罪の保護法益が占有それ自体であることから,そのように解釈され…,ます。 ということじゃなかったっけ?
主:んー,条文に書いてない? あ,えと,条文…,んとー,(10秒くらい) え?なんだっけ?思い出せない。
主:242条には,「自己の財物であっても,他人が占有」する場合は「他人の財物とみなす」とありますね。 あ!!はい。 そうだー。
主:では,法は,どのような占有を保護しているかについて,あなたはどのような見解に立ちますか? はい。事実上の占有それ自体です。 さっきも言ったけど…
主:判例は,どのような立場ですか? はい,えと,事実上の占有それ自体…,だったと思います。 平穏占有説ではなかったはず…
主:そうだっけ? え!はい,えと,そうだった…,と思われます。 心の声がもれた…,違うの!?
主:そうですね。では,以上を前提として,Vに窃盗罪は成立しますか? はい。本件では,成立しません。 合ってたんかい!!
主:あなたはさきほど,成立するとおっしゃっていませんでしたか? あ,えと,自救行為として違法性が阻却されるため,窃盗罪は成立しません。 やっとこの話題だ。
主:うん。自救行為ね。自救行為に当たるかどうかは,どのように判断しますか? はい。行為の具体的態様等を総合的に考慮して,社会通念上相当なものであるかを判断します。  
主:うん。本件では,どうですか? はい。まず,Vが取り返したのが翌日でしたので,時間的な経過の程度が著しいとはいえないと考えられるのと,施錠がされていない状態で停めてあったことからXの占有の程度は緩やかであったといえます。そしてVは,自転車を探していて,外見上,自転車が自己の物であるに違いないとして確実に認識している事情から,社会通念上相当な範囲内であると考えられますので,自救行為として認められるかと思われます。  
主:なるほど。でも,VはXの敷地内から乗って帰っているけど,その点については,どう考えますか? はい。えと…,確かに,Xの敷地内なので他人のVがみだりに立ち入ってはならないという点は否定できません。しかし…,どのような敷地であったかにもよりますが,開放的な空間であれば,短時間のうちに本来の所有者であるVがXに奪われた自己の物を取り戻すことは…,社会通念上不相当…とまでは言えないかと思われます。 ですよね。消極要素…
主:それじゃあ,どういう場合だとダメなの? はい。例えば…,そうですね…,マンションの敷地内にある駐輪場,あ,居住者以外が立ち入ることができない形で区画されているような専用駐輪場のようなところだった場合とか…です。このような場合は,そもそも場所の構造上,Vの立ち入りが自由に認められていないので,たとえ自己の物を取り戻そうとする場合であっても,マンションの管理人さんに事情話すなどして承諾を得る等をする必要があると考えられます。そうすると,このような場合に,敷地内の駐輪場に立ち入って自転車を取り戻すことは社会通念上相当とは言えません。 時間かけたくない。とにかくそのまま思考を吐き出そう。
主:そうですか。わかりました。では,事案を変えます。 はい。 やっとひと区切りかー。
主:Aは,Vに対して,無利息で10万円を貸し付けました。その後,Aは期限が到来したのでVに返済を求めたところ,Vは,そんな金は借りてない等と言って返済に全く応じませんでした。立腹したAは,Vに対し,「今,10万円払わなければ,ぶっ殺す。むしろ,利息付きで,15万円支払うべきだ。」などと強く返済を迫った。Vは,これに畏怖して,15万円をAに渡した。 はい。 これはまさか…,権利行使と恐喝の事案?
主:この事案で,Aにどのような犯罪が成立しますか? はい。恐喝罪が成立します。  
主:うん,そうですか。Aは,15万円要求しているけど,どの範囲で成立するの? はい,えと…,成立する額の範囲ということでしょうか? 部分的に犯罪が成立するとかあったっけ?
主:はい,そうです。成立する額の範囲です。15万円なのか,5万円なのか。 はい。15万円です。  
主:え!!5万円ではなくて? あ,えっと… ふぁ!?そんな驚く?もしかして違うのか…
主:…(真顔) すみません。5万円です。 自信なくなってきた…
主:5万円。どうして? はい。Aは,Vに対して債権を有しており,金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権として10万円の範囲で権利行使をすることが認められます。そうすると,10万円の範囲については,適法な権利行使として認められます。他方で,5万円については,何ら根拠がないにもかかわらず,金銭を要求するものであるので,その部分について社会通念上相当なものではないと考えられるので,恐喝罪が成立する…,ことになる,と思われます。 まじで自信なくなってきた…
主:うーん,つまり,10万円についてはAのVに対する貸金の返還を請求するものであるとして,~だから成立しない。他方で,5万円については,その範囲外だから,ダメで恐喝罪が成立する。ということでいいんですね? えと…,はい…,  
主:ほぉ。恐喝罪の構成要件を言ってみてくれますか? はい。えと,「人を恐喝して」「財物を交付させた」こと,です。 あ。条文の文言のところしか言ってない。
主:社会通念上相当とかって,何の要件? えと,「人を恐喝した」…,恐喝行為です。  
主:そうなの? あ,えと…, やばい。
主:財産上の損害じゃない? あ!はい。そうです。 そうか,そうだったかも!
主:はい。それで,本件でVの財産上の損害はいくらですか? 5万円…,です。 またここに戻ってきた…やっぱりなんか違う気がするんだけど,15万円って言っても違う雰囲気出してたしな…
主:そしたら,10万円は損害ではない。なぜ? はい。えっと…,AがVに対する貸金の返還を請求するものとして,権利の範囲内だからです。 さっきもこのくだりあったよな。
主:それでいいの? あ,えっと…, これは修正の誘導なのか??どっちなんだー。
主:… はい。えー…,すみません,撤回いたしまして,15万円で成立す(遮られる) そうだよ。個別財産に対する罪だから,畏怖して交付させられたこと自体が損害じゃん。この主査なんなんだ。
主:え?15万円で成立するの!!? あ,いや,えー…, パニック
主:どっち?決めないと先に進めないよ(笑) はい。そうですよね。えー…,すみません,5万円です。  
主:5万円でいいのね? は…,はい。 もうどうにでもなれ
主:そうですか。判例は,何て言ってますか? はい。えー,権利の範囲内で,かつ社会通念上相当なものであれば,恐喝罪が成立しないと言っています。  
主:それは,構成要件に該当しないということ?それとも,違法性が阻却されるということ? はい。違法性阻却の話かと思います。  
主:本当に,違法性阻却でいいんだね? えー…,(5秒考える)     恐喝行為として認められるかどうかということだった…かと思われるので,構成要件該当性の問題です。 何でスッといかないんだ?俺が間違えてるのか…
主:そうですか。「社会通念上相当」とかいう文言とかとの関係って,どう考えるの? はい。「人を恐喝した」といえるかどうかの要件の判断として組み込んで考えます。  
主:組み込んで考える…。それで,社会通念上相当といえるかは,どう判断しますか? はい。権利行使の内容,行為の態様等から,債権者の取立てとして通常ありうる範囲であるかどうかという観点から判断します。  
主:本件については,どうですか? はい。本件では,Aは10万円については,無利息の貸金なので,Aの権利行使の範囲内であると考えられ,社会通念上相当な範囲を超えないといえ,「恐喝」行為に当たらないと考えます。  
主:うん。Aの行為の態様を考慮するとどう? はい。えー…,確かに,ぶっ殺すなどという脅迫的な言葉を発していますが,Vの対応が誠実でないことから,腹を立ててしまって,多少言葉が汚くなって取立をすることも,通常の債権者による行為として社会通念上相当でないとまではいえないと考えられます。なので,Aの行為態様を考慮しても,そのように言えます。  
主:じゃあ,結論,10万円については恐喝罪が成立しなくて,5万円については成立するということですね。 はい,そういうことに,なります。  
主:行為態様も特に全体として変わらないけれども,結論は額で異なるということだね? あ,えっと,判例は(遮られる)  
主:いや,あなたの立場からおっしゃって下さい。 はい,…えー,権利の範囲かどうか(遮られる) さすがにもう修正がきかない。おわたー。
主:あなたの立場からですと,10万円については恐喝罪が不成立で,5万円について成立するということですね。 …,はい,そうなります。 もう貫くしかない。
主:はい。では,ここで場面が変わります。 はい。 ようやく刑訴か。やばい,もうあんま時間ないんじゃ…
主:Aは,Vに対する恐喝罪の容疑で逮捕され,その後起訴されました。検察官Pは証人として,Cの証拠調べ請求をし,Cの証人尋問が行われました。Cは,公判で,次のような証言をしました。あ,机のパネルを見て下さい。 はい。 パネル…ここでか
主:「Aは,Vに対して,『今ここで,10万円と利息をつけて5万円を支払わなければ,ぶっ殺すぞ。』と言っていた。」(パネルも同じ内容で文章で書かれていた )。なお,Cの証言の要証事実は,「AがVに対して,恐喝行為を行ったこと」とします。ここまでよろしいですか。 はい。 伝聞だ。しかも,これは非伝聞ぽい?名誉棄損とか,脅迫の場合とかと同じでよかったっけ。
主:では,Cの証言は,伝聞証言にあたりますか? いいえ。これは,伝聞証拠にはあたりません。  
主:なぜですか? はい。AのVに対する恐喝行為を要証事実とする場合,Cの証言は,Aが言っていた『今ここで・・・ぶっ殺すぞ。』ということの内容の真実性ではなく,Aの発言それ自体の存在に意味があると考えられるからです。  
主:そうですか。では,今度は,「AがVに対して,10万円を貸した」という事実を要証事実とする場合には,Cの証言は伝聞にあたりますか? この場合も,伝聞にはあたりません。  
主:なぜですか? はい。この場合は,Cが聞いたAの発言の存在から,10万円を請求しているという事実が読み取れるため,そこからAV間におけるお金の貸し借りがあった事実が推認されます。そのため,内容の真実性が問題となるのではなく,情況証拠として機能すると考えられ,非供述的なものであると考えられるからです。  
主:そうですか。そうすると,改めて最初の場合に戻りますと,これは伝聞にはあたらないですか? えとー,はい…,あたらないのではないかと思われます。 え!?どゆこと?
主:Cって,裁判長から「あなたは,本当にAがVに対してこのように発言していたのを見たのですか?」と聞かれたら,どう答えるんですかね? はい,えー(パネルを何度も読み返しながら),見て,記憶に間違いはない,と答えると思われます。記憶があやふやで,自信がなければ,その旨答えると思います。  
主:うん…まぁ,そういうことね。 はい。 なんだったんだ今のくだりは…
主:では,また事案が変わります。今度は,共犯者Bがいたとして,両者がVに対する恐喝罪の共同正犯としてそれぞれ起訴されたとします。なお,それぞれ別々に審理されることになりました。先に,Bの審理が行われ,Bは,Aとの共謀及び犯罪の実行をしたことを公判廷で供述しました。他方で,その後行われたAの公判において,Aは,(あれこれ言って)否認する供述をしました(ほかにもちょっと事情があった気がするが,忘れた)。ここまで,よろしいですか。 はい。 共犯者の自白か。
主:では,裁判所は,Bの公判廷での供述について,Aの公判において証拠として採用できますか? はい。えー,証拠採用はできないと考えられます。  
主:どうして? はい。Bの自白を先に証拠調べして,それをAの公判で証拠として用いると,Bの自白が過大に評価されて,Aの犯罪事実の認定の上で偏見を与えてしまうからです。  
主:それは,どういう趣旨なの? はい。えと,自白偏重の防止…,ひいては裁判所の誤判防止です。  
主:んー …あ,すみません!AとBは,別々の審理ということでしたか?  
主:そうです。 はい。えと,やはり証拠として採用できるかと思われます。  
主:ん?どうして? はい。審理が別ですと,Bは,Aにとって被告人という立場ではなく,証人の立場になります。そのため,被告人の公判廷外における自白ではないので,322条1項の伝聞例外は問題になりません。  
主:それはそうなんだけど,本件は,Bの審理が先にされていて,その後にAの審理がされています。 あ,はい。えと…,(8秒くらい固まる) ん??なんの問題なんだこれは。わからなくなってきた。
主:これって,予断排除の観点から問題ないですか? あ…,はい。確かに,予断排除の観点から,問題が生じることは否定できないかと。 これは誘導だな。
主:そうすると,証拠採用はできますか? はい。やはり,予断排除の原則に抵触するので,証拠採用はできません。  
主:でも,そうすると,Bの公判廷では,Aの公判が始まって,Aの主張がされるまではずっと審理が停滞してしまうことになりますよね。 えと,はい。そうですね… これも誘導なのか?どっちに乗っかりゃいいんだ…
主:それを踏まえて,証拠採用はできますか? えー…,はい,いや…,できないかと思われます。 こんな議論あったか?
主:どうしてですか? はい。審理の遅滞は,否めないのですが,予断排除がされないとAにとって重大な不利益であって,Bによる引っ張り込みの危険がある上,256条6項等でも禁止されることとの関係で,やはり許されないかと思われます。  
主:そうですか。ここでまた事案が変わります。 はい。 まだあんの??もう時間すぎてね?
主:Bについて,Bは捜査段階から公判の最初まで,Aとの共謀関係及び犯罪の実行を認め自白していました。しかし,突如供述を翻して,Aとの共謀及び犯罪の実行を否認しました。検察官Pとしては,どのような対応をすることが考えられますか? はい。えー…(時間ない!),あ!えと,相反供述にあたるので,Bの捜査段階における供述調書,検面調書の証拠調べを請求すると考えられます!321条1項2号です。  
主:はい。検面調書の証拠調べ請求ですね。わかりました。(副査の方を見やる)    
副:(主査とアイコンタクトしてうなずく。)    
主:以上で終わります。お疲れ様でした。 はい。ありがとうございました。 あ,終わってしまった。でも,時間いっぱいだよな。最後まで行ったのか?微妙なタイミングだな。