H30司法試験予備試験 民事実務基礎 再現答案

  1. 設問1
    1. 小問(1)
      1.  Xが採りうる法的手段としては,YのAに対する80万円の売買代金債権について仮差押命令手続をする保全手段が考えられる(民事保全法20条1項,50条1項)。
      2.  かかる法的手段を採らなければ,法的には,他の債権者への譲渡ないし差押え等がされ,あるいは第三債務者が債務者に弁済をし,これが費消されるなどの事態が禁止されていない状態のままである。そのため,Yが現在,かかる売買代金債権以外に目ぼしい財産がない本件では,XのYに対する債権回収を実際に実現できないおそれがある。
      3.  仮差押命令手続を経ることにより,Aによる弁済禁止効が生じ(同法50条1項),かかる事態を回避することができる。
    2. 小問(2)

 XのYに対する金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権(民法(以下,略す)587条)及び履行遅滞に基づく損害賠償請求権(415条)の2個である。

    1. 小問(3)

 Yは,Xに対し,金100万円及びこれについて平成28年10月1日から履行済みまで年5分の割合による金員を支払え。

    1. 小問(4)
      1.  Xは,Yに対し,平成27年9月15日,返済期限を平成28年9月30日として,100万円を貸し付けた(以下,「本件金銭消費貸借契約」とする。)。
      2.  平成28年9月30日は,到来した。
      3.  平成28年9月30日は,経過した。
  1.  設問2
    1. 小問(1)

 ①に入る事実は,「本件金銭消費貸借契約に基づく貸金債権についての履行として,100万円を支払った。」という事実である。

    1. 小問(2)
      1.  (ⅰ)について,②に入る事実は,「アの代金債権と,本件貸金債権とを相殺する意思表示をした。」である。
      2.  (ⅱ)について,Yは,本小問で相殺の抗弁を主張する。相殺が認められるには,①「互いに同種の目的を有する」債権を有し,②双方の債権が弁済期にあり(505条1項本文),③債務の性質上相殺が許されないものでなく(同但書),④当事者が特約等「反対の意思」表示をしておらず(505条2項本文),そして⑤相殺の意思表示をしたことを要する。 問題は,①において,「Yは,・・・本件カメラを引き渡した。」という事実の主張立証を要するかという点である。売買契約の要素は,目的物及び代金額の合意であると考えられる(555条)ため,引渡は履行の事実に過ぎず,自働債権の発生原因事実としての要件事実にならない。
      3.  これらのうち,①については,相殺権を基礎づけることから,相殺の抗弁を提出するY側において主張立証する必要がある。そのため,①については,請求原因に表れている受働債権を除き,自働債権の発生原因事実が要件事実となるところ,アの事実により充たされる。②ないし④は,②について本件は売買契約であるため期限等の合意は付款であること,③及び④はそれぞれ①及び②により相殺適状があれば相殺が許されるのが原則であるため再抗弁となることから,要件事実とはならない。⑤は,相殺権が形成権であることから,抗弁を主張するYにおける要件事実となるところ,イの事実により充たされる。
      4.  もっとも,売買契約は双務契約であるため,Xには同時履行の抗弁権が付着している(533条)。そのため,債務の性質上,同時履行の抗弁権を奪わなければ,かかる権利をXから一方的に奪うことになるため,相殺が許されないと考えられる。すなわち,同時履行の抗弁権は,双務契約において相手方が公平の見地から,その存在ゆえに存在する権利である。
      5.  したがって,Yとしては,自己が履行の提供をした事実を主張立証しなければ,相殺の抗弁自体が許されず(505条1項但書),主張自体失当である。
      6.  よって,「Yは,Xに対し,平成19年10月1日,アの売買契約に基づき,本件カメラを引き渡した。」という事実を主張する必要がある。
  1.  設問3
    1.  消滅時効(167条1項)の抗弁を主張する場合,Yの相殺の抗弁との関係で,YのXに対する売買代金債権が消滅時効の完成以前に相殺適状にあった場合,なお相殺が許されるため(508条),主張自体失当となる。
    2.  本件で,自働債権は,YのXに対する8万円の売買代金債権であった。そうすると,かかる代金債権の消滅時効の起算点として「権利を行使することができる時」となるのは,特に弁済期の約定がなかったとされることから,売買契約が成立した平成19年10月1日であると解される。そのため,10年経過時点である平成29年10月1日にかかる代金債権の消滅時効が完成する。
    3.  他方,受働債権は,XのYに対する本件100万円の貸金債権であるところ,本件金銭消費貸借契約は平成28年9月15日に行われ,弁済期は同年9月30日時点とされている。したがって,かかる時点で,受働債権の弁済期が到来するから,両債権が相殺適状となる。そのため,本件では,508条の適用がされるため,消滅時効の抗弁にかかわらず,相殺が認められる。
    4.  よって,Pは,消滅時効の抗弁が主張自体失当となるため,断念したと考えられる。
  2.  設問4
    1. Yの主張
      1.  本件で,平成28年9月30日にXとYがレストランで食事をしたという点については,XY間において一致しており,争いがない。かかる面会は,XがYに対し,本件貸金債権の返済として100万円を支払うためであり,100万円を支払った事実の裏付けである。
      2.  まず,かかる日付は,本件金銭消費貸借契約において返済期限とされた,平成28年9月30日であった。そして,書証①の本件通帳から,Yが銀行口座から平成28年9月28日に50万円,翌29日に50万円がそれぞれ引き出された事実が認められる。そして,かかる書証について,Xは成立を認めており,争いはない。そうすると,かかる2回の50万円の出金は,返済期日でありXと面会した9月30日の2日前という近接した時点で行われていること,額が100万円であることから,返済期日のXへの支払のための引き出しであったということが合理的に推認される。
      3.  そして,Yは,以前同窓会の幹事をしたXのミスを指摘するなどした。かかる事実から,XがYに対して恨みをもち,腹いせに100万円を請求する行動に出ることも不自然とは言えない。
    2. Xに対する反論
      1.  本件領収書について,Xは,Yが処分してしまったという点から,Yの返済の事実がなくそもそも存在しないのであると主張する。
      2.  しかし,Yは平成29年8月31日に引っ越しをしたのであり(本件住民票),返済期限から11ヶ月経過していることから,およそ領収書を処分してしまうという事態は無理からぬことである。そして,領収書を処分してしまったことと,領収書を受け取ったという事実は矛盾せず,むしろ受け取っていることが前提である。そのため,領収書を処分したことから,直ちに弁済の事実が否定されるとはいえない。
      3.  また,Xは,供述の中で,Yに対して領収書を渡していないとまではいっていない。このことも,かかる点と矛盾しない。
      4.  そして,XがYに対して恨みを持っていないと主張する。もっとも,恨みがなくても,Yに対して,弁済を受けた事実をとぼけて,100万円を請求することの動機となりうる事情であることは否定できないといえる。

                                     以上

評価:B+(推定)