H30司法試験予備試験 民事訴訟法 再現答案

  1. 設問1について
    1.  同一の訴状により,Y及びZを被告とする手段は,共同訴訟の提起であると考えられる。すなわち,通常共同訴訟の提起による手段が考えられる(民事訴訟法(以下,略す)38条)。
    2.   共同訴訟が認められるには,「訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通である」場合,「同一の事実上及び法律上の原因に基づく」場合(38条前段),あるいは「訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づく場合」(同後段)のいずれかであることを要する。
      1.  「訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通である」かについて,本件で,XはYに対して本件絵画を300万円で売り渡したという売買契約に基づき,300万円の代金支払請求をしている。他方,XのZに対する請求は,本件絵画を300万円で売り渡した売買契約に基づく代金支払請求である。両請求は,Y及びZに対して連帯債務に基づき請求するものではなく,本件絵画を300万円で売り渡した買主がいずれであるかという点で異なるにすぎない。
      2.  したがって,XのY及びZに対する請求につき,それぞれの代金支払「義務」が「共通である」とはいえない。
      3.  「同一の事実上及び法律上の原因に基づく」といえるかについては,上記によれば,XのYに対する請求及びZに対する請求のいずれも,本件絵画を300万円で売り渡したという「同一の事実」内容にかかるものである上,かかる内容の売買契約という同一の「法律上の原因に基づく」ものであるといえる。
      4.  したがって,通常共同訴訟の手段を採ることができる(38条前段)。
    3.  もっとも,通常共同訴訟の場合,共同訴訟人独立の原則(39条)により主張共通は認められないと考えられるほか,弁論の分離も法的には制限されない。そこで,必要的共同訴訟によることはできないか(40条)。必要的共同訴訟が認められるには,「合一にのみ確定すべき場合」であることを要する。
      1.  共同訴訟手続が紛争の一挙的解決ないし統一的な解決を図る趣旨であるところ,特に必要的共同訴訟は,手続上訴訟共同を強制させ訴訟行為等において統一性を持たせるなど(40条1項,2項),統一的な紛争解決を図るべき法律上の要請に基づく。そうすると,合一確定の要請があるか否かは,実体法上の権利又は法律関係の内容,性質,訴訟手続上における統一性を要求しないことで紛争解決の実効性が損なわれるなどの事情の有無に照らして,判断されるべきであると解される。
      2.  本件で,XのY及びZに対する請求は,先述の通り,それぞれ本件絵画を300万円で売り渡したという売買契約に基づくものである。実体法上,両請求は,別個の人格主体との間における独立の契約関係として存立するものと扱われる。そうすると,両請求は,法律上両立しうるものであるということができる。そのため,両者の訴訟行為等を法律上共通にさせるといった規律により統一する必要があるとはいえない。 しかし,Y及びZのいずれも買主でないという結論もありうるところ,両立しないという結論自体は,事実上のものであって,法律上の非両立関係はないというべきである。そして,通常共同訴訟の手続上,併合審理がされるのであるから,事実上の両立性が損なわれるのは,その可能性があるというにすぎない。ゆえに,訴訟共同を裏付ける法的必要を基礎づける事情があるとまではいえない。
      3.  もっとも,本件絵画は,特定物であると考えられるから,本件絵画を300万円で売り渡すのは,YあるいはZのいずれかであり,2つの売買契約は両立しないように思える。
      4.  したがって,両請求は「合一にのみ確定すべき場合」ではないから,必要的共同訴訟によることはできない。
  2.  設問2について
    1.  Xは,Yとの訴訟において,Zに対して訴訟告知(53条1項)をしたが,Zは補助参加(42条)しなかった。訴訟告知を受けた者が,訴訟に参加しなかった場合には,「46条の規定の適用について」,「参加しなかったものとみな」される(53条4項)。そこで,かかる効力がZに及ぶかどうかが問題となる。
      1.  そもそも,46条は補助参加人について生じる「効力」の規定であるが,かかる「効力」については明文上明らかでなく解釈が問題となる。 本件では,Yの主張した売買契約成立否認の理由につき,XY間の訴訟では請求棄却の理由となっている。すなわち,本件絵画の買主がZであることが判断されている。
      2. よって,かかる判断事項について参加的効力が生じる。
      3.  46条の趣旨は,補助参加人が被参加人との間で共同戦線を形成し,協働して訴訟追行をしたことに由来して敗訴責任の分担をさせ,もって将来の紛争を予防することにある。そのため,46条にいう「効力」は,被参加人とその相手方との間における紛争解決を志向する既判力(114条1項)とは異なる趣旨に基づくものと考えられる。したがって,かかる趣旨に照らせば,訴訟物たる権利又は法律関係に係る判断のみならず,その前提となる判決理由中の判断事項である先決的法律関係等の判断について生じる特殊な拘束力(参加的効力)であると解される。
      4.  もっとも,これを後訴で用いることができるか。Zが「参加することができる第三者」であるかにつき,ここにいう第三者は,法律上の利害関係を有する者に限られる。
      5.  本件で,YのXに対する売買契約に基づく300万円の代金支払義務について,YはZの代表取締役を務めていることから,事実上の利害関係がある。しかし,両者は異なる人格主体であるから,法的に利害を共通にするものではない。
    2.  したがって,53条4項に基づく46条にいう効力は,Zには及ばず,これを用いることはできない。
  3.  設問3について
    1.  弁論の分離(152条1項)は,裁判長の訴訟指揮権の発動たるものである。そのため,裁量権の逸脱ないし濫用にあたるべき事情が,主張の根拠となる。そこで,いかなる事情が裁量権の逸脱濫用にあたるかが問題となる。
      1.  訴訟指揮権は,そもそも訴訟手続を運営する裁判長の合目的的かつ広範な裁量を尊重する趣旨である。特に,弁論の分離は,当該事案において,併合審理をすることが訴訟運営上審理の複雑化,訴訟遅延の弊害等が生じるおそれがある場合に,かかる事態を回避するための制度である。そのため,当該事案において,具体的事情に照らし,かかる弁論の分離の目的に照らし明らかに合理性を欠く事情がある場合には,裁量権の逸脱濫用があるといえる。
      2.  したがって,かかる合理性を欠く事情が根拠となり得る。
      3.  本件では,XY間の訴訟では,Yが,Zが本件絵画を買い受けた者であるとして売買契約成立の否認の理由を述べている。そのため,XYZ間において,本件絵画を買い受けた者が,YかZのいずれか一方であることについては,争いがないものと考えられる。そうすると,Y及びZに対するXによる売買代金支払請求訴訟について,Xはいずれか一方との関係では勝訴が明らかに見込まれるものであった。そのため,ここで弁論を分離した場合,Xは両負けの可能性を強いられる。他方,他に訴訟遅延や審理の複雑化を招く事情はない。
    2.  したがって,かかる事情が,根拠となり得る。

                                     以上

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