平成30年度(昨年) 一橋大ロー再現答案 憲法

  1. 小問1について
    1.  「あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師等に関する法律」(以下,「本件法律」とする。)及びXに対するコース新設申請に対する不認定処分(以下,「本件不認定処分」とする。)は,Xのあん摩マッサージ指圧師等教育事業遂行の自由並びに教授の自由を侵害し,それぞれ憲法22条1項及び23条ないし26条1項に反する。
      1.  まず,前提として,Xは法人であるが,法人も実社会において様々活動を行う実体のある主体であるから,性質上可能な限り,憲法第3章の規定する基本権の保障が及ぶ。 また,教育機関が,学生に対して様々教育を行うことは,教授の自由として,これは学問研究の発表としての側面を有すると同時に,教育を施す主体としての権利である。ゆえに,23条ないし26条1項により保障される。Xも,医療系専門学校を経営する学校法人として,あん摩マッサージ指圧師等を目指す学生への教授の自由を保障されているといえる。
      2.  憲法22条1項は,職業選択の自由を保障している。そして,ここにいう「選択」には,職種の選択のみならず,職業ないし個人の事業の遂行の上でのあらゆる場面での「選択」も包含される。とすれば,Xが医療系専門学校として行う教育事業の遂行の自由というのも,22条1項において保障される職業遂行の自由に含まれる。
      3.  本件法律は,「文部科学大臣の認定した」学校又は養成施設(同法2条1項)に対して,教育課程等の変更に際して文部科学大臣等による承認を受けなければならないとし(同条3項),一定の場合にその承認をしないことができる(19条)と定めており,これはXの上記各自由を制限するものであるといえる。また,本件不認定処分は,まさしくXの本件コースの新設の認定を拒否するものであるから,これを制限しているといえる。しかし,これは必要かつ合理的な制限として,正当化されない。
        1.  合憲性判断基準については,次のように考えるべきである。本件不認定処分についても,これに準じて考え,規制目的が正当であり,本件でXに対して不認定処分を下すことについて本件法律の趣旨目的達成のため合理的関連があるか否かにより決するべきである。
        2.  本件法律については,これは視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師等の職域優先を図る措置に基づくものであり,社会経済上のハンディキャップのある障がい者の救済・権益保護に基づくものといえる。ゆえに,これは積極目的規制に該当する。これについては,立法府がその裁量的判断に待つべきものとされ緩やかな判断基準によるのが一般ではある。しかし,本法19条によれば,判断基準について,視覚障碍者以外の者が占める割合等の客観的事情を中心としている点において,規制の態様は相対的に見てより厳しいものである。したがって,いわゆる明白性の原則は妥当せず,目的が正当なものであり,かつ規制手段が合理的な関連性を有するか否かを判断するべき である。
        3.  本件についてみると,まず本件法律は,上記の通り,1964年の法改正の際に,視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師等の職域優先を図ることを目的として,19条1項において「あん摩マッサージ指圧師等の総数のうちに視覚障碍者以外の者が占める割合,あん摩マッサージ指圧師にかかる学校又は養成施設において教育し・・・ている生徒の総数のうちに視覚障碍者以外の者が占める割合」等の事情を勘案し,必要がある場合に,視覚障碍者以外の者を対象とした学校・養成施設の新設・店員増加を認めないという形で,係る施設の新設を規制している。かかる手段は,視覚障碍者でないあん摩マッサージ指圧師等の志願者が増加することないし競争の激化を防ぎ,職域を確保することについて適合的であるといえる。一方で,視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師等に対して,その生計に配慮した措置はとられていない。その上,視覚障碍者の者たちの職域が狭小することは,個人の技術的な側面によると考えられる。そうだとすれば,あえて視覚障碍者でない同業者の職域を縮減させることで,視覚障碍者の者たちの職域を確保するという目的の達成との間には,合理的関連がないといえる。
        4.  また,仮に本件法律が合憲であるとしても,本件不認定処分は,合理的関連性がない。すなわち,Xが本件不認定処分を受けた20××年現在,あん摩マッサージ指圧師の従業員数は12万人であり,その3割である3万6000人程度が視覚障碍者である。そのため,全体の傾向として,視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の職が圧迫されているとはいえない。もっとも,近時では他に職を見つけることが難しい視覚障害のあるあん摩マッサージ指圧師の営業を圧迫している。しかし,これは,無免許の業者の増加によることが原因であるところ,これに対して政府は具体的な対応措置をとっていないのである。そうすると,より直接的な解決となりうる無資格営業者の取締りをせず,Xのコース新設を制限することで他の視覚障碍者の職域確保を図るという手段の実効性については,合理性がないといえる。仮に合理的関連性の充足まで要求されないとしても,かかる規制手段は,著しく不合理であることが明白であるといえる。
        5.  よって,本件法律ないし本件不認定処分は,必要かつ合理的な制限として正当化されない。
      4.  したがって,これらは22条1項ないし26条1項に反する。
    2.  本件法律及び本件不認定処分は,視覚障碍者でないあん摩マッサージ指圧師になるべく資格取得を目指す者らが,あん摩マッサージ指圧師の資格を得るための機会を奪い,その職業の選択の機会を奪うものであるから,憲法22条1項に反する。
      1.  まず,上記の通り,22条1項は個人がいかなる職業をもって,自己の生計を維持するか,ないしはその活動を通じて自己実現を図るかという点における「選択」の自由を有している。そのため,視覚障碍者以外の者らの職業選択の自由は,当然保障される。
      2.  本件法律ないし本件不認定処分は,視覚障碍者でない者らにとってあん摩マッサージ指圧師等の資格取得のための勉学の場を奪うものであるから,職業選択の自由を制限するものである。そして,これは必要かつ合理的な制限として正当化されない。
  2. 小問2について
    1. Xの教育事業遂行の自由ないし教授の自由に対する制限について
      1. Xの侵害されている自由について

 国側としては,まずXは,教授の自由(憲法23条,26条1項)を制限されているものではないと反論すると考えられる。

 確かに,Xとしては,あくまで当該申請をした新設コース以外において,あん摩マッサージ指圧師等の資格取得を目指す人々に対する教授について制限されているものではないから,あくまでXの教授の自由自体が,本件法律ないし本件不認定処分により制限を受けているとはいえない。したがって,国側の反論は正当である。

 もっとも,Xの教育事業遂行の自由については,上記Xの主張の通り,これは職業遂行の自由すなわち営業の自由に属する1つとして,憲法22条1項により保障されている。そして,これは本件法律及び本件不認定処分により,制限されているといえる。

      1. 本件法律について
        1.  国側としては,合憲性判断基準について,本件法律は積極目的規制であるほか,客観的事由により視覚障碍者以外の者を対象とする教育課程の設置について不認定できることを定めているが,これは専門的・技術的な判断に基づくものであるから立法裁量が尊重されるため,その裁量の逸脱濫用すなわち規制目的に合理的根拠がなく,あるいは手段が著しく合理性を欠くことが明白であると認められる場合でない限り,合憲であるとすべきであると反論すると考えられる。
        2.  確かに,経済政策としての規制措置については,経済的弱者保護の措置としてのいかなるものが適正妥当なものかについては,専門的・技術的な観点からの検討を踏まえたものが必要と考えられる。そして,これは立法府の裁量に委ねられると考えられる。そのため,①職業の自由に対する②積極目的規制については,上記明白性の原則が妥当する。本件でも,Xの教育事業遂行の自由という職業上の自由に対する,視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の職域確保ないし生計維持という積極目的規制によるものと考えられるから,本件法律の合憲性判断基準については,明白性の原則が妥当するというべきである。
        3.  そして,かかる基準によれば,本件法律は,19条1項における視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師等の職域の確保ないし生計の維持に資するという規制目的に合理性がないことが明白であるとはいえない。また,あん摩マッサージ指圧師等における視覚障碍者とそうでない者との割合その他の事情を勘案して,視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認める場合に,そうでない者を対象とする教育課程の申請の承認をしないこと認めることは,視覚障碍者以外の者の職域拡大を調整するものであり,著しく合理性を欠くことが明白であるといえない。
        4.  よって,本件法律は,憲法22条1項に反せず,合憲である。
      2. 本件不認定処分について
        1.  国側としては,合憲性判断基準について,本件法律19条1項によれば,これはその所定の考慮要素を勘案して,「必要があると認めるときは」,「承認をしないことができる」と定めているところ,これは個々の事案において,判断者たる文部科学大臣等に裁量が与えられているものといえるから,行政裁量の尊重の観点から,上記と同様にいわゆる明白性の原則によるべきであると反論すると考えられる。
        2.  本件法律19条1項の規定からすれば,実際の法適用の場面においても,行政裁量の領域の場面であるから,原則的には明白性の原則が妥当しうると考えられる。 
        3.  そして,国側としては,本件不認定処分は,規制の趣旨目的はなおのこと,規制手段において,無資格者の取締りは別として,Xが視覚障碍者でないあん摩マッサージ指圧師等の免許取得のコース新設をすることについて不認定としてこれを制限することで,視覚障碍者の者たちの職域の確保を図ることについて著しく合理性を欠くことが明白であるとまではいえないと反論すると考えられる。 しかし,本件では,免許を持たない業者の取締りについては,無免許による施術が健康に害であるとはいえないとして具体的な対応が見送られている。そして,無免許者による営業が視覚障害のあるあん摩マッサージ指圧師等の営業を圧迫しているとの事実を考慮せず,免許取得のためのコース新設の制限により規制目的を達成しようとするものであると考えられる。これは,本来免許取得における過程で淘汰されるべき制度設計とは相いれないものであるし,問題の元凶である無免許者による営業圧迫を解消することにはつながらない。その点において,Xのコース新設を不認定とすることに著しく合理性がないことが明白であるといえる。
        4.  そこで検討すると,確かに無免許の業者による施術が増加し健康被害が増えているところ,Xがコースの新設をすることにより,免許取得を志向する一定数の者が流入する可能性がある。そうすると,視覚障碍者でない者の職域が狭められるおそれがあるといえ,その数や割合を勘案すれば,Xのコース新設を不認定とすることにつき著しく不合理であるが明白であるとまではいえないとも思える。
        5.  以上によれば,本件不認定処分は著しく不合理であることが明白である。
      3.  したがって,本件不認定処分については,Xの教育事業遂行の自由を侵害し憲法22条1項に反すると考える。
    1. 他の視覚障碍者でない者たちの職業選択の自由に対する制限について 
      1.  国側としては,本件法律ないし本件不認定処分は,いずれも視覚障碍者でない者たちの職業選択の自由を制限するものではないと反論すると考えられる。
      2.  かかる反論は,正当であると考える。なぜなら,本件法律は,法改正以前の視覚障碍者以外の者を対象とした学校・養成施設の設置についてこれを排除するものではないから,ここでの教育を受ける機会は確保されているから,視覚障碍者でない者らが免許取得の機会を奪われそのためあん摩マッサージ指圧師等の職業選択の自由を制限するものではないからである。また,本件不認定処分も,Xでの学習を通じて免許取得をすることはできないが,それ以外の施設での教育を通じて免許を取得することは可能であるから,やはり視覚障碍者以外の者の職業選択の自由を侵害しているとは言えないからである。

                                     以上