平成30年度(昨年) 一橋ロー再現答案 民事訴訟法

  1. 小問(1)について
    1.  本件CDEの訴えは,甲土地及び乙土地の境界はcdの線分を境界とするものであることの確定を求める,いわゆる境界確定訴訟である。これには,理論的に次のような特殊性がある。
      1.  まず,その法的性質については,争いがあるが,次のように解される。すなわち,境界確定訴訟は,土地の権利ないし法律関係の存否の判断を目的とするのではなく,土地の境界という行政上の土地区画の区分について,時の経過とその間における種々の権利の変動関係ゆえに不明瞭となることがあるため,その確定を求めるものである。 したがって,境界確定訴訟は,非訟的性格を有する形式的形成訴訟というべき訴訟類型であると解される
      2.  そのため,これは当事者の主張する審判対象ないし提出する訴訟資料を前提とした法律の解釈適用をする性質のものとは異なると考えられる。これは,裁判所が,その提出された訴訟資料を斟酌して,合目的的権利に基づく裁量的判断によりなされる審判であるといえる。
      3.  このような特殊性から,次のような帰結が導かれる。すなわち,裁判所は,境界確定の認定に際して,当事者の主張する訴訟資料に拘束されない(弁論主義の排除)。また,原告の申し立てた境界線が真実の境界であるかを確定するものでもないから,この「申立事項」(246条参照)に拘束されない(処分権主義の排除)。
    2.  以上のような境界確定訴訟の特殊性を前提として,Bの反論を考慮しつつ,裁判所のなすべき判決について検討する。
      1.  Bの反論は,Bがabの線分にかかる範囲で土地を時効取得したとして,cdが境界であることの確定を求めることには訴えの利益がなく不適法であるということにあると考えられる。 本件では,CらとBは,それぞれ甲土地及び乙土地という相互に隣接した土地の所有者であるから,その境界の確定を求める本件訴訟について何ら訴えの利益を欠くものではない。
      2.  ゆえに,Bの反論は失当である。
      3.  この点,上記境界確定訴訟の特殊性からすれば,訴えの利益すなわち当該訴訟当事者間における紛争解決の必要性及び実効性は,両者が相互に隣接する土地の所有者たることにあると考えられる。そのため,権利関係の存否によりこれが左右されるものとはいえない。
      4.  そして,本小問で,裁判所は,真実の境界については確信が得られなかった一方で,cdではなくefの線分が甲及び乙土地の境界である可能性が高いと判断している。かかる心証によれば,裁判所としては,証明が得られないとして請求を棄却するべきか,あるいはefを線分とする部分を境界とすることを確定すべきかが問題となる。 そうだとすれば,裁判所としては,efの線分で甲乙土地の境界を確定すべきといえる。
      5.  ここで,境界確定訴訟は,特に権利又は法律関係の存否を判断するというものではなかった。そのため,境界についてそれを裏付ける証明がなされたか,ノンリケットの場合の法不適用の原則が妥当しないと考えられる。他方で,非訟的性格から,当事者が「境界の確定」を求める以上,裁判所としては,これを果たさずに請求を棄却するということは許されないと解される。
      6.  しかしながら,本件では裁判所としては,abcdに区画される土地の部分について,Bの時効取得が認められるとの心証を抱いている。そこで,これを含めて,むしろabを境界とする判断をすべきではないか。
      7.  この点,権利ないし法律関係の存否を判断すべきものではないから,Bの主張する時効取得すなわち所有権の原始取得という権利関係に基づいて判断することは,境界確定訴訟においては予定されておらず,別途確認訴訟等によるべきと考えられる。しかし,あくまで裁判において顕出された訴訟資料を斟酌した結果,境界を確定することが求められているのであるから,認定される権利関係を基にして,合目的的見地から,これを境界と定めることを否定するべき理由はない。むしろ,後日におけるBの取得時効の主張がなされこれが認められることにより,確定された境界との齟齬が生じる可能性を考慮すれば,このような認定が妥当であると考える。
    3.  したがって,裁判所としては,abを線分とする境界を甲乙土地の境界として確定する判決をすべきである。
  2. 小問(2)について
    1.  本小問において,abの線分を境界とする甲乙土地の境界を確定する第1審判決について,CDEはこれ以上争わない旨の合意をしているにもかかわらず,Dが単独で控訴をすることが許されるかが問題となる。これが許されない場合は,裁判所としては,控訴を不適法として却下すべきである(287条1項)。
    2.  具体的には,Cらの訴えが,「合一にのみ確定すべき場合」として固有必要的共同訴訟(40条1項)にあたるか否かが問題となる。
      1.  この点,固有必要的共同訴訟においては,法律上訴訟共同が強制される場合であり,訴訟行為において統一性の確保が要求される(40条2項)といった規律から,実体法上の管理処分権の性質のみならず,訴訟法上の統一的紛争解決の趣旨の観点から判断するべきである。
      2.  本件のような境界確定訴訟は,土地の境界すなわち行政上の区画の確定を定めるものであり,公益的な性質を有する。そのため,係争地の一方が共有関係にある場合は,当該共有者全員について境界を確定しなければ意味がない。そして,これによってはじめて紛争の統一的解決が確保される。
      3.  したがって,これは固有必要的共同訴訟にあたる(40条1項)。そのため,BCDE間において,もはやこれを争わない旨の合意形成がされており,これには提訴者側のCら全員の意思でされている。他方で,控訴したのはDであって,隣地所有者たるBではない。
    3.  よって,本件Dの控訴は不適法であるから,却下すべきである(287条1項)。

                                     以上 

 

*追記

小問(2)については,判例によれば,納得のいかないDが上訴する場合,被告に同調した他の者を被告とすることですることができると考えられる(最判平成11年11月9日)。

しかし,この事案の特殊性は,いったん共有者及び相手方との間でこれ以上争わない合意があったことから,この合意に反して行われた上訴の適法性ないしその取扱いを論じる必要があったと思われる。

・合意の性質

・合意の有効性

→一方のみが控訴しない旨の合意については,無効と解した古い判例がある(大判昭和9年2月26日)。

・合意に反して行われた控訴の適法性

といった点を論及する必要があると考えられる。