平成30年度(昨年) 一橋ロー再現答案 刑事訴訟法

  1. 小問1について
    1.  第1審判決が「当事者の訴訟活動を基礎として形成されている」という点は,いわゆる当事者追行主義をいうものと解される。当事者追行主義とは,審判者による被告人の弾劾というものではなく,訴追者対被告人という二当事者の対立を基礎として,両者による主導的な訴訟追行を確保する考え方である。これは第1審において次のような諸制度が採用されていることに基づくと考えられる。
    2.  まず,刑事手続の契機となるのが,捜査機関による捜査活動の開始である(189条2項)。そして,司法警察職員ないし検察官が捜査を行い,犯人の確保及び犯罪の証拠収集保全を行った上,訴追者たる検察官(247条)が,その起訴不起訴の判断をした上で(248条),検察官が作成する起訴状により公訴提起をすることになる(256条1項)。一方で,被疑者においても,弁護人を選任し(憲法34条前段,法30条1項),接見(39条1項)を通じて当該弁護人の助言,指導を下に防御の準備等を独自に行うことができる。
    3.  そして,公判手続も,まず検察官が起訴状を朗読することから始まる(291条1項)。これは,公判手続たる刑事訴訟における審判対象たる訴因の特定をするために行われるものである(256条3項参照)。その上で,被告人に対し黙秘権を告知した上で,弁護人を含めて陳述の機会が与えられ,当事者の主導により争点が形成されていくことになる(291条4項)。
    4.  次に,証拠調べ手続も,これは検察官、被告人又は弁護人によりなされる(298条1項)。そして,その際検察官による冒頭陳述により証明すべき事実が明らかにされる(296条本文)。他方,あくまで,裁判所の職権の発動は,補充的なものにとどまる(298条2項)。そして,証拠調べの範囲も,これは裁判所の主導ではなく,やはり検察官及び被告人又は弁護人の意見を聞いた上で定められる(297条1項)。
    5.  さらに,証拠調べが終了した際も,検察官が事実及び法律の適用について意見を陳述し,いわゆる論告求刑を行うことになる(293条1項)。そして、これに対して弁護側が意見を述べることになる(同条2項)。これを踏まえ,最終的に裁判所が判決を下すことになる。
    6.  このように,第1審手続においては,当事者を主導として判決の基礎が形成され,他面裁判所は中立的な判断者たる地位に純化されるのである。このような訴訟制度から,当事者追行主義が裏付けられる。
  2. 小問2について
    1.  直接主義とは,裁判所の面前における証拠調べを経た証拠を通じた事実認定を基礎として判決がされるべきとする原則をいう。口頭主義とは,訴訟手続についてこれを口頭により行う原則をいう。
    2.  これは,それぞれ次のような条文において具体化されている。
    3.  まず,直接主義については,公判手続の更新である(315条) 。これは,公判において判断者たる裁判官が替わった場合に,それまでの公判手続において現れた訴訟資料について,これを引き継ぐための手続である。
    4.  本来,当該公判手続における判断者は,当事者が提出した証拠をその面前において直接取調べこれにより心証を形成した当該裁判官が判断すべきことを要求している。これが,直接主義の要請するところである。もっとも,その判断者たる当該裁判官が除斥等により交代すべき場合には,公判手続を維持する必要性に配慮し,直接主義の要請をも確保する必要がある。そのため,直接その面前でなされた証拠調べを引き継ぐ必要が生じる。このように,公判手続の更新は,直接主義の1つの表れである。
    5.  口頭主義については,証人等の人的証拠の証拠調べの方法として,証人尋問が採用されていることにあらわれている(304条1項)。これは,証言すなわち供述証拠というのは,およそその文言すなわち文面だけでなく,供述者の供述の際の言動態度等の観察を通じた全体として,その信用性等を判断し,証拠力ないし証明力評価を図るものである。そのため,人的証拠の証拠調手続においては,証人尋問という口頭による方法が採用されているのである。もっとも,これは直接主義の要請も含んでいると思われる。
  3. 小問3 
    1.  裁判員制度の導入を契機として,確かに直接主義口頭主義が徹底された状況となった。その理由は,次の点にある。
    2.  すなわち,第1審は,無論事実審である。また,裁判員制度において,裁判員は事実認定及び量刑判断を任されている。そして,裁判員は,一般通常人であるため,特に事実認定ないし量刑判断にあたっての訴訟資料についてわかりやすさが要求されているものと解される。
    3.  このようなことから,裁判員制度の下においては,上記直接主義及び口頭主義における特質から,裁判員制度の充実等を図るために特に重要な手続的原則であると考えられる。そのため,直接主義・口頭主義が徹底された状況となったと考えられる。

                                     以上

平成30年度 一橋ロー再現答案 刑法

刑法第1問

  1. XがVの右腿を包丁で1回突き刺した行為について
    1.  かかる行為について,Vに対する傷害罪の共同正犯(60条,204条)の成否を検討する。
    2.  まず,「人を傷害」する行為とは,人の身体的機能ないし生理的機能を害する行為をいう。上記行為は,Vの右腿部に包丁を突き刺すという物理力を行使した結果,当該部分に裂傷等を生じたものと解されるから,Vの生理的機能を害する行為として「傷害」する行為にあたる。
    3.  また,Xが包丁でVに切りかかるという行為態様からして,単なる物理力の行使という認識にとどまらず,Vの右腿部分に裂傷を生じることを認識予見していたものといえる。したがって,Xには傷害の故意が認められる。このように,Xの行為は,傷害罪の構成要件に該当する。
    4.  そして,共同正犯の処罰根拠は,自己の犯罪を実現する意思の下,特定の犯罪を実現するべく相互協力する共謀をし,犯罪を共同惹起する点にある。そのため,犯罪の実行を行っていない者であっても,正犯意思があり,特定の犯罪の遂行を共謀し,これに基づき他の者が犯罪を実行した場合には,共謀共同正犯が成立する。したがって,X及びYについて,傷害罪の共同正犯が成立しうる。
    5.  本件でも,Xは,Vと口論になり,電話口で「待っていろ。」といって因縁をつけられた形でこれを切られ,その後VがX方に来るであろうことを予期しつつ,自分がVと応戦することを前提として,Yに電話をし,加勢を求めている。すなわち,「暴力団のVと電話で言い争いになり,家に来るからもしれない。」と伝え,Yに助力を頼んで,Yも兄であるXの頼みであったことから,自己の犯罪として,Vに対する応戦・共闘を承諾している。ゆえに,X及びYは,「暴力沙汰になった場合に備えておく」ために出刃包丁を準備していたことからしても,少なくともVに対する傷害行為について事前共謀が成立していたといえる。そして,上記の通り,Xは傷害行為を遂行している。
    6.  もっとも,上記行為は,YがVから頭部及び顔面の暴行を受ける等の攻撃を受けたことからなされたものであるところ,正当防衛が成立しないか(36条1項)。
      1.  本件では,X及びYが,XのVとの口論を前提として,Vがやってくることを予見しつつ,犯行に使用した包丁を準備していた等の事情があるところ,VのYに対する頭部及び顔面を殴り,腰や大腿部を蹴る暴行ないし転倒させられ,Yの背に右足を乗せられ動きを封じられているというYの「身体」に対する「不正の侵害」状況について,急迫性が否定されないか。
      2.  そもそも,急迫性は,不正の侵害が現に押し迫っていることをいう。確かに,侵害を予期していれば急迫性は否定されるように思えるが,法は侵害に対する回避義務を負わせているものではない。正当防衛の正当化根拠は,法益に対する緊急的な侵害状況における防衛行為を通じた法益の自己保全(法確証の利益)を承認すべき点にある。そうだとすれば,単なる侵害予期ないしこれに備えた一定の準備自体によっては,急迫性は否定されず,むしろ法益の自己保全に資するといえる。他方で,侵害状況を予期するのみならず,これに名を借りた積極的な加害行為を意図していたときは,もはや正当防衛としての正当化根拠を欠くから,急迫性が否定される。
      3.  本件についてみると,Xは,Vとの電話口での口論の末,Vから「待っていろ。」といって電話を切られたことで,後ほどVがX宅に因縁をつけてやってくることを予期している。そして,その趣旨をYに伝え,Yもこれを認識している。さらに,両者は,Vとの暴力沙汰になることを想定し,出刃包丁を準備し,これを勝手口付近において準備していたものである。かかる事情からは,X及びYは,Vとの暴力沙汰になることを予期し,これに備えた護身道具を準備したというにとどまり,いずれもVに対する積極的な侵害行為を行う意図は見られない。したがって,本件で,VのYに対する不正の侵害行為について,急迫性は否定されない。
      4.  また,Xとしては,弟YがVにより暴行を受けている状況を認識して,Vの身体が危ないと感じて上記行為に及んでいるから,VのYに対する侵害を避けようという単純な心理状態で応戦したものといえ,「防衛するため」であったといえる。
      5.  もっとも,上記行為がVの侵害を排除するため「やむを得ずした」行為といえるか。「やむを得ずした」行為とは,行為の必要最小限度性すなわち必要性及び相当性が認められることをいう。
      6.  本件についてみると,Yを踏みつけているVの右足を除去してYを解放し侵害から逃避させるためには,かかる右足に攻撃を加えることが必要であったといえる。もっとも,XとYは共謀関係にあり,Vとは2対1であったほか,素手のVに対して出刃包丁という凶器で応戦することは武器対等の原則の観点からも,相当性を欠くように思える。しかし,YはVの攻撃を受け,地面に伏せられ,身動きがとれない状況にあったのであるから,Xは実質的に1人で応戦せざるをえず,上記行為の態様としては,Yが侵害を受けている右足のみを狙い,1回だけ突き刺したにすぎない。かかる程度の行為は,かかる事実関係の下においては,相当でないとまではいえない。
      7.  したがって,Xの上記行為について,正当防衛が成立する(36条1項)。
    7.  よって,Xの上記行為については,犯罪が成立しない。
  2. XがVの左胸部を突き刺した行為について
    1.  かかる行為について,Vに対する殺人罪の共同正犯(60条,199条)の成否を検討する。
    2.  まず,「人を殺」す行為とは,同罪が人の生命を保護法益とする具体的危険犯たる犯罪類型であることをも考慮すれば,人の生命侵害を惹起する具体的かつ現実的危険を有する行為をいうと解される。本件でも,Xは,Vに対し,刃渡り25センチメートルにも及ぶ出刃包丁という刃物で,その左胸部という心臓の位置する身体の枢要部を力いっぱいという激しい態様で突き刺しており,これはVの心臓に損傷を与え,Vの生命侵害を惹起する具体的かつ現実的危険を有する行為であるといえ,殺人の実行行為にあたるといえる。  
    3.  もっとも,Yとしては,Vからの暴行等に応戦し,出刃包丁で立ち向かい,同人に障害を加えるところまでは認識予見があるといえる一方,死亡させることについては認識予見がなかったといえる。ここで,一部実行全部責任の法理の根拠は,特定の犯罪遂行の共同意思に基礎を置くから,「共同」とは犯罪の共同である。そのため,共同正犯においては,犯罪の共同が必要であるところ,行為者間で故意が異なる場合には,当該犯罪について共同正犯は成立しない。もっとも,保護法益ないし行為態様の共通性の観点から,大小関係にある場合には,その実質的重なり合いの限度で共同正犯は成立すると解される。本件でも,X及びYは,傷害罪の限度で,XのVに対する左胸部の刺傷行為について共同正犯が成立しうる 
    4.  これによりVは死亡しており,無論 ,まさしく上記行為の危険が,心臓停止という死因を招来したといえるから,危険の現実化がみられる。そして,Xは,出刃包丁という凶器で,上記の行為態様で,左胸部を狙っていったと考えられることからして,Vの死亡を認識予見し,これを認容したものといえるから、故意も認められる。
    5.  そうだとしても,Xとしては,上記行為はVが「何をしやがる。」といいながらXに近づいてきたため,Yのみならず自己への危険を感じたことを契機とするものであった。そこで,上記Xの行為についても,正当防衛が成立しないか(36条1項)。
      1.  確かに,Xとしては,上記右腿への攻撃によりVが怯んだかと思いきや,「何をしやがる。」などと攻撃の意思を感じさせる言葉を吐きながらVが向かってきたことから,YないしXへの侵害が現に差し迫っていたものといえそうである。
      2.  しかし,これは,直前にYがうずくまったVに対して下半身を前方から1回蹴りつけるという暴行行為に起因したものであった。かかる暴行行為の次の瞬間,VがXらに向かってきたのである。かかる事実関係からすれば,上記暴行行為と時間的場所的に接着し,これに起因して生じたVによる侵害行為については,Yの行為ではあるがXも含めて自招侵害であるといえ,これに対する反撃行為については,上記正当防衛の趣旨から正当化することはできないと解される。
      3.  したがって,上記Vに対する左胸部への刺傷行為について独立して正当防衛は成立しえない。
    6.  もっとも, Vが再度Xに向かってきた契機となったYの暴行は,Vから再度暴行を受けることを恐れたゆえのものであった。そこで,Xの上記行為は,Vからの最初の侵害行為に対する防衛行為として一体として捉え,これに量的に過剰な防衛行為をしたものとして全体として過剰防衛とならないか(36条2項)。
      1.  ここで,本件ではVがXによる右腿への刺傷行為によりうずくまった時点において侵害状況はいったん解消されたものと言わざるを得ない。このような場合,当初の防衛行為との断絶があるから,侵害終了後の防衛行為については新たな共謀が成立したことを前提として,行為態様の同質性,防衛の意思の連続性といった観点から侵害終了前の暴行との一連一体性が認められる場合には,全体として1個の過剰防衛が成立しうると考える。
      2.  本件についてみると,Vがうずくまった後,Yはそのわずかな隙に立ち上がり,Vからの再度の暴行を受けることを恐れて同人の下半身を蹴る暴行を加えており,これは一連一体の行為としてなされている。そして,Vは,Xの方に向き直って,今度はXに対する侵害状況を生じており,これは当初の侵害とは一応別個のものである。一方で,これに対してXは,一緒にいたYとともに,自己への危険を生じている。故に、これにより両者は,新たな共謀をし,時間的場所的に近接して,連続した過程の中で,Xは再度包丁をもって応戦しており,行為の同質性及び防衛の意思の連続性があり,全体として,一連一体のものであるといえる。
    7.  Xの上記行為について,殺人罪の単独犯(199条)として,Yは傷害致死罪の共同正犯(60条,205条)として過剰防衛となる(36条2項)。 

                                     以上

刑法第2問

  1. A社とCの間における本件心水玉を6か月間無償貸与する契約を締結した行為
    1.  かかる行為につき,背任罪(247条)の成否を検討する 
    2.  「他人のためにその事務を処理する者」は,背任罪の本質が一定の事務処理関係につき,法律上又は事実上の信頼関係に違背して本人に財産上の損害を加える点にあることから,法令又は契約等に基づき事務を処理する者のみならず,主として他人の事務を処理する者も含まれる。
    3.  本件についてみると,Xは,A社において,関東地区のブロック長の立場にあったところ,雇用契約民法623条参照)に基づき本件心水玉に関する営業権限を与えられていたものと解される。そして,これに基づき本件心水玉の売り込み等に関し事務処理をする者であったといえる。ゆえに,Xは,本件心水玉の売り込み等営業につきA社の事務を処理する者であったといえる。
    4.  「任務に背く行為」とは,当該事務処理権限に基づく信任関係に違背する行為すなわち本人の利益を図るべく期待された行為をせず,あるいはこれに反する行為をいう。 しかしながら,本件では,Cはリストラされており,退職金を食いつぶしながら生活をしていたこと,手持ちの現金すらなく,開店にあたって退職金の残額すべてをつぎ込んだ上で,親から300万円を借りることまでしていたことからすると,Cの資力にはおよそ疑うべき事情があったといえる。そうすると,本件心水玉を無償で貸与することは,契約時点において対価を取得できない形式であった点において,XとしてはA社の収益を図るべく期待された信任関係に違背したものといえる。
    5.  したがって,任務違背行為であるといえる。
    6.  Xは,A社との間で,上記の通り,本件心水玉に関する営業権限を与えられていたことから,これを売りこむ契約をとりつけるなどして収益を得ることを期待されていたものと考えられる。本件では,XはCとの間で,A社がCに対し本件心水玉をC店の開店から6か月間無償で貸与する契約をしている。これは,無償であることから,A社にとり収益性がなく,およそかかる権限に基づきXにおいて期待された行為と言えないように思える。もっとも,契約の条件によれば,6か月後においてCは本件心水玉の価格50万円を支払うすなわち買い取るか,それが難しい場合には返還を受けるというものであった。そのため,収益性がなかったとはいえないともいいうる。
    7. 「財産上の損害」とは,背任罪が全体財産に対する犯罪であることから,本人の有する財産的利益を低下させたことをいうと解する。
    8.  本件では,Xは結局Cに本件心水玉を売り,50万円を取得することないし返還を受けることに失敗しており,本件心水玉にかかる対価相当額について「財産上の損害」 を生じているといえる。
    9.  「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的」とは,主として自己若しくは第三者の利益を図りあるいは本人の利益を図る意図が存在しないことをいうと解される。 したがって,Xには図利あるいは加害目的がない。
    10.  本件では,Xとしては,Cの資力にはかなり疑うべき事情がありつつも,本件心水玉が数年前から売られ,これが講演会などを通じて評判となり,熱烈に支持されており,その収益性は高いものであった。また,X自身もこれにほれ込んでおり,たとえCの収益性に多少難があり,一定のリスクが伴っていたとしても,これを本件心水玉の評判でカバーし,収益性を補いつつ,ひいてはCがそこから繁盛することでさらに本件心水玉の評判が高まり,これはA社にとっても利益となるものであったといえる。そして,Xもこれを認識していたことからすれば,Xとしては主として自己若しくは第三者の利益を図り,あるいはA社の利益を害する意図はなかったといえる。
    11.  以上より,Xの上記行為について,背任罪は成立しない。
  2. Cに対し本件心水玉の返還を懇願した行為
    1.  かかる行為につき,詐欺未遂罪(250条,246条1項)の成否を検討する。
    2.  本件で「人を欺」く行為があるか否かが問題となるところ,これは被害者の財物交付に向けられた,その交付の判断の基礎となる重要な事実を偽ることをいう。そして,これは社会経済上通常行われる取引に際しての交渉・駆け引きとの当罰性を画するべく,行為の内容,性質,具体的態様等から客観的に判断して,社会通念上相当なものといえるかどうかによって決するべきである
    3.  本件についてみると,Xは,「実は,今日心水玉をもって帰るか,代金を回収するかしないと,俺は会社を首になってしまう。」などとCに申し向けている。これは,真実Xがそのような措置を受けることがないにもかかわらず,Cを見限り,同人との関係を断ち切ろうとした意図であったものであるから,かかる点において偽りがあるといえる。これは,Cにとり,取引の相手方たるXに迫った危機であるから,いったんXに本件心水玉を返還すべく,これを交付する判断の基礎となる重要な事項であったといえる。
    4.  しかしながら,本件では,上記契約条件において,CはXをしてA社に対して代金50万円を支払うか,本件心水玉を返還するかのいずれかを選択するべきものであった。そして,Cが代金を用意できなかった以上,Xとしてはその返還を受けるべき正当な理由があったといえる。そうすると,Cが返還をもごねたことから,Xとしては,取引上の駆け引きとして,Cから何としても本件心水玉の返還を受けるべく,多少事情を偽ることも無理からぬことであったといえる。そして,その態様も,泣き落としであり,演技をしたものと解されるが,かかる程度のものであれば,通常の取引でもありえないものではなく,社会通念上相当な態様のものであったといえる。
    5.  したがって,Xの行為は欺罔行為にあたらない。
    6.  よって,Xの上記行為について詐欺未遂罪は成立しない。
  3. Cに20万円を渡させた行為
    1.  かかる行為について,恐喝罪(249条1項)の成否を検討する。
    2.  「人を恐喝」する行為とは,人を畏怖させるに足りる程度の害悪の告知をいう。そして,特に債権者が債務者に対する権利行使として,追及する場合,本来適法な債権者の督促行為との当罰性を画する必要がある。そこで,当該行為が債権者の権利の範囲内であり,かつ社会通念上相当な行為態様で行われる限り,恐喝行為にあたらず,同罪は成立しないと解する。 しかし,Xは,「返さなかったら,店がどうなっても知らんぞ。うちの会社には,すぐに手が出る若い衆もいるんだぞ。何なら今から呼び出そうか。」などと語気鋭く申し向けている。これは,Cないし店に対し,力づくで代金を回収しようとその身体ないし財産等に対し害悪を加える旨のものであり,その態様は客観的にみてやくざのやり方ともいえるものであり,社会通念上相当なものとは言い難い。
    3.  したがって,Xは,Cを恐喝しているといえる。
    4.  確かに,Xは,本件心水玉をCが割り,破損したことから,「代金を支払ってもらおう」として,その支払を要求している。これは,当初の契約内容とも合致することから,およそ権利の範囲内のものであるといえる。
    5.  そして,これに基づいてCはXに20万円を渡し,もってXは20万円の移転を受けているから,財物を交付させたといえる。
    6.  よって,故意に欠けることもない以上,Xの上記行為について恐喝罪(249条1項)が成立する。
  4.  以上より,XはCに20万円を交付させた行為について恐喝罪の罪責を負う。

                                     以上

 

*追記

いわゆる権利行使と恐喝の論点について

判例の立場は,構成要件該当性(恐喝行為とか)の問題ではなく,違法性阻却事由の問題である。

 

 

kawashokichi.hatenadiary.jp

 

 

 

平成30年度(昨年) 一橋大ロー再現答案 憲法

  1. 小問1について
    1.  「あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師等に関する法律」(以下,「本件法律」とする。)及びXに対するコース新設申請に対する不認定処分(以下,「本件不認定処分」とする。)は,Xのあん摩マッサージ指圧師等教育事業遂行の自由並びに教授の自由を侵害し,それぞれ憲法22条1項及び23条ないし26条1項に反する。
      1.  まず,前提として,Xは法人であるが,法人も実社会において様々活動を行う実体のある主体であるから,性質上可能な限り,憲法第3章の規定する基本権の保障が及ぶ。 また,教育機関が,学生に対して様々教育を行うことは,教授の自由として,これは学問研究の発表としての側面を有すると同時に,教育を施す主体としての権利である。ゆえに,23条ないし26条1項により保障される。Xも,医療系専門学校を経営する学校法人として,あん摩マッサージ指圧師等を目指す学生への教授の自由を保障されているといえる。
      2.  憲法22条1項は,職業選択の自由を保障している。そして,ここにいう「選択」には,職種の選択のみならず,職業ないし個人の事業の遂行の上でのあらゆる場面での「選択」も包含される。とすれば,Xが医療系専門学校として行う教育事業の遂行の自由というのも,22条1項において保障される職業遂行の自由に含まれる。
      3.  本件法律は,「文部科学大臣の認定した」学校又は養成施設(同法2条1項)に対して,教育課程等の変更に際して文部科学大臣等による承認を受けなければならないとし(同条3項),一定の場合にその承認をしないことができる(19条)と定めており,これはXの上記各自由を制限するものであるといえる。また,本件不認定処分は,まさしくXの本件コースの新設の認定を拒否するものであるから,これを制限しているといえる。しかし,これは必要かつ合理的な制限として,正当化されない。
        1.  合憲性判断基準については,次のように考えるべきである。本件不認定処分についても,これに準じて考え,規制目的が正当であり,本件でXに対して不認定処分を下すことについて本件法律の趣旨目的達成のため合理的関連があるか否かにより決するべきである。
        2.  本件法律については,これは視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師等の職域優先を図る措置に基づくものであり,社会経済上のハンディキャップのある障がい者の救済・権益保護に基づくものといえる。ゆえに,これは積極目的規制に該当する。これについては,立法府がその裁量的判断に待つべきものとされ緩やかな判断基準によるのが一般ではある。しかし,本法19条によれば,判断基準について,視覚障碍者以外の者が占める割合等の客観的事情を中心としている点において,規制の態様は相対的に見てより厳しいものである。したがって,いわゆる明白性の原則は妥当せず,目的が正当なものであり,かつ規制手段が合理的な関連性を有するか否かを判断するべき である。
        3.  本件についてみると,まず本件法律は,上記の通り,1964年の法改正の際に,視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師等の職域優先を図ることを目的として,19条1項において「あん摩マッサージ指圧師等の総数のうちに視覚障碍者以外の者が占める割合,あん摩マッサージ指圧師にかかる学校又は養成施設において教育し・・・ている生徒の総数のうちに視覚障碍者以外の者が占める割合」等の事情を勘案し,必要がある場合に,視覚障碍者以外の者を対象とした学校・養成施設の新設・店員増加を認めないという形で,係る施設の新設を規制している。かかる手段は,視覚障碍者でないあん摩マッサージ指圧師等の志願者が増加することないし競争の激化を防ぎ,職域を確保することについて適合的であるといえる。一方で,視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師等に対して,その生計に配慮した措置はとられていない。その上,視覚障碍者の者たちの職域が狭小することは,個人の技術的な側面によると考えられる。そうだとすれば,あえて視覚障碍者でない同業者の職域を縮減させることで,視覚障碍者の者たちの職域を確保するという目的の達成との間には,合理的関連がないといえる。
        4.  また,仮に本件法律が合憲であるとしても,本件不認定処分は,合理的関連性がない。すなわち,Xが本件不認定処分を受けた20××年現在,あん摩マッサージ指圧師の従業員数は12万人であり,その3割である3万6000人程度が視覚障碍者である。そのため,全体の傾向として,視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の職が圧迫されているとはいえない。もっとも,近時では他に職を見つけることが難しい視覚障害のあるあん摩マッサージ指圧師の営業を圧迫している。しかし,これは,無免許の業者の増加によることが原因であるところ,これに対して政府は具体的な対応措置をとっていないのである。そうすると,より直接的な解決となりうる無資格営業者の取締りをせず,Xのコース新設を制限することで他の視覚障碍者の職域確保を図るという手段の実効性については,合理性がないといえる。仮に合理的関連性の充足まで要求されないとしても,かかる規制手段は,著しく不合理であることが明白であるといえる。
        5.  よって,本件法律ないし本件不認定処分は,必要かつ合理的な制限として正当化されない。
      4.  したがって,これらは22条1項ないし26条1項に反する。
    2.  本件法律及び本件不認定処分は,視覚障碍者でないあん摩マッサージ指圧師になるべく資格取得を目指す者らが,あん摩マッサージ指圧師の資格を得るための機会を奪い,その職業の選択の機会を奪うものであるから,憲法22条1項に反する。
      1.  まず,上記の通り,22条1項は個人がいかなる職業をもって,自己の生計を維持するか,ないしはその活動を通じて自己実現を図るかという点における「選択」の自由を有している。そのため,視覚障碍者以外の者らの職業選択の自由は,当然保障される。
      2.  本件法律ないし本件不認定処分は,視覚障碍者でない者らにとってあん摩マッサージ指圧師等の資格取得のための勉学の場を奪うものであるから,職業選択の自由を制限するものである。そして,これは必要かつ合理的な制限として正当化されない。
  2. 小問2について
    1. Xの教育事業遂行の自由ないし教授の自由に対する制限について
      1. Xの侵害されている自由について

 国側としては,まずXは,教授の自由(憲法23条,26条1項)を制限されているものではないと反論すると考えられる。

 確かに,Xとしては,あくまで当該申請をした新設コース以外において,あん摩マッサージ指圧師等の資格取得を目指す人々に対する教授について制限されているものではないから,あくまでXの教授の自由自体が,本件法律ないし本件不認定処分により制限を受けているとはいえない。したがって,国側の反論は正当である。

 もっとも,Xの教育事業遂行の自由については,上記Xの主張の通り,これは職業遂行の自由すなわち営業の自由に属する1つとして,憲法22条1項により保障されている。そして,これは本件法律及び本件不認定処分により,制限されているといえる。

      1. 本件法律について
        1.  国側としては,合憲性判断基準について,本件法律は積極目的規制であるほか,客観的事由により視覚障碍者以外の者を対象とする教育課程の設置について不認定できることを定めているが,これは専門的・技術的な判断に基づくものであるから立法裁量が尊重されるため,その裁量の逸脱濫用すなわち規制目的に合理的根拠がなく,あるいは手段が著しく合理性を欠くことが明白であると認められる場合でない限り,合憲であるとすべきであると反論すると考えられる。
        2.  確かに,経済政策としての規制措置については,経済的弱者保護の措置としてのいかなるものが適正妥当なものかについては,専門的・技術的な観点からの検討を踏まえたものが必要と考えられる。そして,これは立法府の裁量に委ねられると考えられる。そのため,①職業の自由に対する②積極目的規制については,上記明白性の原則が妥当する。本件でも,Xの教育事業遂行の自由という職業上の自由に対する,視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の職域確保ないし生計維持という積極目的規制によるものと考えられるから,本件法律の合憲性判断基準については,明白性の原則が妥当するというべきである。
        3.  そして,かかる基準によれば,本件法律は,19条1項における視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師等の職域の確保ないし生計の維持に資するという規制目的に合理性がないことが明白であるとはいえない。また,あん摩マッサージ指圧師等における視覚障碍者とそうでない者との割合その他の事情を勘案して,視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認める場合に,そうでない者を対象とする教育課程の申請の承認をしないこと認めることは,視覚障碍者以外の者の職域拡大を調整するものであり,著しく合理性を欠くことが明白であるといえない。
        4.  よって,本件法律は,憲法22条1項に反せず,合憲である。
      2. 本件不認定処分について
        1.  国側としては,合憲性判断基準について,本件法律19条1項によれば,これはその所定の考慮要素を勘案して,「必要があると認めるときは」,「承認をしないことができる」と定めているところ,これは個々の事案において,判断者たる文部科学大臣等に裁量が与えられているものといえるから,行政裁量の尊重の観点から,上記と同様にいわゆる明白性の原則によるべきであると反論すると考えられる。
        2.  本件法律19条1項の規定からすれば,実際の法適用の場面においても,行政裁量の領域の場面であるから,原則的には明白性の原則が妥当しうると考えられる。 
        3.  そして,国側としては,本件不認定処分は,規制の趣旨目的はなおのこと,規制手段において,無資格者の取締りは別として,Xが視覚障碍者でないあん摩マッサージ指圧師等の免許取得のコース新設をすることについて不認定としてこれを制限することで,視覚障碍者の者たちの職域の確保を図ることについて著しく合理性を欠くことが明白であるとまではいえないと反論すると考えられる。 しかし,本件では,免許を持たない業者の取締りについては,無免許による施術が健康に害であるとはいえないとして具体的な対応が見送られている。そして,無免許者による営業が視覚障害のあるあん摩マッサージ指圧師等の営業を圧迫しているとの事実を考慮せず,免許取得のためのコース新設の制限により規制目的を達成しようとするものであると考えられる。これは,本来免許取得における過程で淘汰されるべき制度設計とは相いれないものであるし,問題の元凶である無免許者による営業圧迫を解消することにはつながらない。その点において,Xのコース新設を不認定とすることに著しく合理性がないことが明白であるといえる。
        4.  そこで検討すると,確かに無免許の業者による施術が増加し健康被害が増えているところ,Xがコースの新設をすることにより,免許取得を志向する一定数の者が流入する可能性がある。そうすると,視覚障碍者でない者の職域が狭められるおそれがあるといえ,その数や割合を勘案すれば,Xのコース新設を不認定とすることにつき著しく不合理であるが明白であるとまではいえないとも思える。
        5.  以上によれば,本件不認定処分は著しく不合理であることが明白である。
      3.  したがって,本件不認定処分については,Xの教育事業遂行の自由を侵害し憲法22条1項に反すると考える。
    1. 他の視覚障碍者でない者たちの職業選択の自由に対する制限について 
      1.  国側としては,本件法律ないし本件不認定処分は,いずれも視覚障碍者でない者たちの職業選択の自由を制限するものではないと反論すると考えられる。
      2.  かかる反論は,正当であると考える。なぜなら,本件法律は,法改正以前の視覚障碍者以外の者を対象とした学校・養成施設の設置についてこれを排除するものではないから,ここでの教育を受ける機会は確保されているから,視覚障碍者でない者らが免許取得の機会を奪われそのためあん摩マッサージ指圧師等の職業選択の自由を制限するものではないからである。また,本件不認定処分も,Xでの学習を通じて免許取得をすることはできないが,それ以外の施設での教育を通じて免許を取得することは可能であるから,やはり視覚障碍者以外の者の職業選択の自由を侵害しているとは言えないからである。

                                     以上

 

 

 

平成30年度(昨年) 一橋ロー再現答案 民事訴訟法

  1. 小問(1)について
    1.  本件CDEの訴えは,甲土地及び乙土地の境界はcdの線分を境界とするものであることの確定を求める,いわゆる境界確定訴訟である。これには,理論的に次のような特殊性がある。
      1.  まず,その法的性質については,争いがあるが,次のように解される。すなわち,境界確定訴訟は,土地の権利ないし法律関係の存否の判断を目的とするのではなく,土地の境界という行政上の土地区画の区分について,時の経過とその間における種々の権利の変動関係ゆえに不明瞭となることがあるため,その確定を求めるものである。 したがって,境界確定訴訟は,非訟的性格を有する形式的形成訴訟というべき訴訟類型であると解される
      2.  そのため,これは当事者の主張する審判対象ないし提出する訴訟資料を前提とした法律の解釈適用をする性質のものとは異なると考えられる。これは,裁判所が,その提出された訴訟資料を斟酌して,合目的的権利に基づく裁量的判断によりなされる審判であるといえる。
      3.  このような特殊性から,次のような帰結が導かれる。すなわち,裁判所は,境界確定の認定に際して,当事者の主張する訴訟資料に拘束されない(弁論主義の排除)。また,原告の申し立てた境界線が真実の境界であるかを確定するものでもないから,この「申立事項」(246条参照)に拘束されない(処分権主義の排除)。
    2.  以上のような境界確定訴訟の特殊性を前提として,Bの反論を考慮しつつ,裁判所のなすべき判決について検討する。
      1.  Bの反論は,Bがabの線分にかかる範囲で土地を時効取得したとして,cdが境界であることの確定を求めることには訴えの利益がなく不適法であるということにあると考えられる。 本件では,CらとBは,それぞれ甲土地及び乙土地という相互に隣接した土地の所有者であるから,その境界の確定を求める本件訴訟について何ら訴えの利益を欠くものではない。
      2.  ゆえに,Bの反論は失当である。
      3.  この点,上記境界確定訴訟の特殊性からすれば,訴えの利益すなわち当該訴訟当事者間における紛争解決の必要性及び実効性は,両者が相互に隣接する土地の所有者たることにあると考えられる。そのため,権利関係の存否によりこれが左右されるものとはいえない。
      4.  そして,本小問で,裁判所は,真実の境界については確信が得られなかった一方で,cdではなくefの線分が甲及び乙土地の境界である可能性が高いと判断している。かかる心証によれば,裁判所としては,証明が得られないとして請求を棄却するべきか,あるいはefを線分とする部分を境界とすることを確定すべきかが問題となる。 そうだとすれば,裁判所としては,efの線分で甲乙土地の境界を確定すべきといえる。
      5.  ここで,境界確定訴訟は,特に権利又は法律関係の存否を判断するというものではなかった。そのため,境界についてそれを裏付ける証明がなされたか,ノンリケットの場合の法不適用の原則が妥当しないと考えられる。他方で,非訟的性格から,当事者が「境界の確定」を求める以上,裁判所としては,これを果たさずに請求を棄却するということは許されないと解される。
      6.  しかしながら,本件では裁判所としては,abcdに区画される土地の部分について,Bの時効取得が認められるとの心証を抱いている。そこで,これを含めて,むしろabを境界とする判断をすべきではないか。
      7.  この点,権利ないし法律関係の存否を判断すべきものではないから,Bの主張する時効取得すなわち所有権の原始取得という権利関係に基づいて判断することは,境界確定訴訟においては予定されておらず,別途確認訴訟等によるべきと考えられる。しかし,あくまで裁判において顕出された訴訟資料を斟酌した結果,境界を確定することが求められているのであるから,認定される権利関係を基にして,合目的的見地から,これを境界と定めることを否定するべき理由はない。むしろ,後日におけるBの取得時効の主張がなされこれが認められることにより,確定された境界との齟齬が生じる可能性を考慮すれば,このような認定が妥当であると考える。
    3.  したがって,裁判所としては,abを線分とする境界を甲乙土地の境界として確定する判決をすべきである。
  2. 小問(2)について
    1.  本小問において,abの線分を境界とする甲乙土地の境界を確定する第1審判決について,CDEはこれ以上争わない旨の合意をしているにもかかわらず,Dが単独で控訴をすることが許されるかが問題となる。これが許されない場合は,裁判所としては,控訴を不適法として却下すべきである(287条1項)。
    2.  具体的には,Cらの訴えが,「合一にのみ確定すべき場合」として固有必要的共同訴訟(40条1項)にあたるか否かが問題となる。
      1.  この点,固有必要的共同訴訟においては,法律上訴訟共同が強制される場合であり,訴訟行為において統一性の確保が要求される(40条2項)といった規律から,実体法上の管理処分権の性質のみならず,訴訟法上の統一的紛争解決の趣旨の観点から判断するべきである。
      2.  本件のような境界確定訴訟は,土地の境界すなわち行政上の区画の確定を定めるものであり,公益的な性質を有する。そのため,係争地の一方が共有関係にある場合は,当該共有者全員について境界を確定しなければ意味がない。そして,これによってはじめて紛争の統一的解決が確保される。
      3.  したがって,これは固有必要的共同訴訟にあたる(40条1項)。そのため,BCDE間において,もはやこれを争わない旨の合意形成がされており,これには提訴者側のCら全員の意思でされている。他方で,控訴したのはDであって,隣地所有者たるBではない。
    3.  よって,本件Dの控訴は不適法であるから,却下すべきである(287条1項)。

                                     以上 

 

*追記

小問(2)については,判例によれば,納得のいかないDが上訴する場合,被告に同調した他の者を被告とすることですることができると考えられる(最判平成11年11月9日)。

しかし,この事案の特殊性は,いったん共有者及び相手方との間でこれ以上争わない合意があったことから,この合意に反して行われた上訴の適法性ないしその取扱いを論じる必要があったと思われる。

・合意の性質

・合意の有効性

→一方のみが控訴しない旨の合意については,無効と解した古い判例がある(大判昭和9年2月26日)。

・合意に反して行われた控訴の適法性

といった点を論及する必要があると考えられる。

 

平成30年度(昨年) 一橋ロー再現答案 民法

 

民法 第1問

  1. 小問(1)
    1.  Bは,1980年に甲土地を,Aとの売買(555条)により取得し,引渡しを受けているところ,1990年時点において10年間占有を継続したとして取得時効を主張すると考えられる(162条2項,145条)。これが認められるためには,「所有の意思をもって」,「平穏,かつ公然と」,「他人の物」を「10年間」「占有した」こと及び「占有開始時において善意で,かつ過失が無かったことを要する。
      1.  まず,問題となるのは,Bは甲土地を,上記の通り,売買により所有権を取得している(176条参照)ことから,「他人の物」の要件が充たされるかという点である。 ゆえに,かかる要件については,これが「他人の物」であることを要しない。 したがって,Bは、Cとの関係で甲の所有権を主張しえず,かつ所有権の弾力性から,Bは当初から甲の所有権を取得しなかったこととなり,結局「他人の物」たる甲を占有していたといえる。
      2.  もっとも,本件では,Bは,上記売買の時点において,甲の登記名義の移転を受けることがなかった。そして,その後1985年に,CがAから甲の売却を受けたことにより,CもAから甲の所有権を取得することとなった。そのため,Aを起点とした二重譲渡が生じており,両者は対抗関係に立つところ,Cが登記の移転を受けている以上,同人が背信的悪意者たる事情も特にない本件においては,Cとの関係でBは甲の所有権を主張できない。
      3.  そもそも,時効制度の趣旨は,一定期間継続した事実関係を尊重し,これに法的承認を与え,もって法的安定に資する点にある。取得時効においては,特にかかる趣旨から,取得時効を主張する者の占有継続に対して権利者としての承認を与えるものである。そうだとすれば,「自己の物」であっても,占有という事実状態に対する法的承認を与えるという趣旨に反するところではなく,単に自己物の時効取得に必ずしも実際上の利益があるというわけではないというにすぎない。
      4.  そして,Bは,甲を1980年にAとの売買により取得し,その引渡しを受け,1990年現在においてこれを占有しているから,その間占有が途絶えた事情のない以上,甲を10年間占有したといえる(186条2項)。また,これにより,Bは,平穏かつ公然と,善意に,甲を占有していたことが推定され(同条1項),かつBにおいて,甲が自己の物でないと知っていたという事情もない。そして,Bは,Aとの売買を原因として甲を取得している以上,甲が自己の所有でないことにつき疑う事情はなく,無過失であったといえる。
      5.  したがって,Bには,甲につき10年間の占有による時効取得が認められる。
    2.  そうだとしても,Bは,甲の時効取得につき,登記なくしてこれをCに主張することができるか。
      1.  登記は,不動産物権変動にかかる権利関係を画一的に処理し,もって不動産取引の安全に資するための制度である。そして,登記による公示により物権変動の帰属が決されるべき場面は,当該不動産にかかる権利関係について相争う対抗関係が生じた場面である。ゆえに,不動産の権利取得につき登記を要する場面というのは,このような対抗関係が生じる場面である。また,実質的な価値判断としても,権利変動の原因が発生する以前には,登記による公示をなしえない。そのため,登記による公示を要求することができるのは,不動産にかかる権利関係の原因が生じた以後の場面であると考えられる。
      2.  本小問の場合についてみると,Cは,1985年にAから甲の売却を受け,所有権を取得している。他方,Bは,1990年に162条2項に基づく取得時効が完成し,これによりCの所有権の取得原因を生じている。そうすると,Cは,Bの取得時効完成前の第三取得者ということになる。そして,この場面においては,甲に係る物権変動については,AからC,CからBへの順次承継関係が生じているがごとき構図となる。そのため,C及びBは,甲にかかる物権変動の前主・後主の関係,すなわち当事者類似の関係にたつ。そのため,Bは,甲の時効取得似ついて、Cとの間で対抗関係に立たない。
      3.  また,Bとしては,1990年の時効完成以前には,これを原因とする所有権移転登記をなしえないのであるから,Bの時効取得主張について,登記の具備を要求することはおよそ酷である。
      4.  したがって,Bは,時効取得について,Cに対して登記なくしてこれを主張することができる。
    3.  以上より,Bは,Cに対して,10年の占有継続による甲の時効取得を主張することができる。
  2. 小問(2)
    1.  本小問で,Bが甲の所有権を時効取得したと主張するには,1980年の占有開始から2005年現在において25年経過していることから,10年の取得時効及び20年の取得時効のいずれも主張することができるが,それぞれ場合分けして検討する。
    2. 10年の取得時効(162条2項)を主張する場合
      1.  かかる場合,BがDに対して取得時効を主張するにあたって,登記を要するかについて問題となる。
      2.  ここでも,上記見地に立って,登記の要否を検討すると,Dは,1995年にCに対する債権を担保するために甲土地について抵当権の設定を受けている。これは,Bの1990年におけるBの10年の取得時効完成時点よりも後である。ゆえに,Dは,小問(1)と異なり,時効完成後に現れた者である。そして,抵当権は,非占有担保権であり,目的物の交換価値を把握し,その実現により優先弁済を受ける権利である(369条参照)であるところ,所有権の制限物権たる担保物権として位置づけられるから,所有権を取得する者との間で実質的な対抗関係に立つといえ,登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」(177条参照)たりうる。そのため,Dは,Bとの間で甲土地について対抗関係に立つといえる。なお,CないしDの法的地位の安定を確保するべく,時効の起算点については,取得時効を主張する者が任意にこれを動かすことは許されないと解され,やはり1980年からの取得時効については,Dは,時効完成後の第三者といえる。
      3.  したがって,Bが取得時効を主張するには,登記が必要であるといえそうである。
      4.  そして,Bとしても,1990年を経過して時効が完成した以上,時効取得を原因とする登記をすることができたのであるから,10年の取得時効に基づく物権変動の主張について登記の懈怠という消極的価値判断も妥当する。
      5.  もっとも,2005年現在において,Dの抵当権設定ないしその登記から,Bはさらに10年の期間占有継続しているが,これに基づいてなお取得時効を主張しえないか。 そして,かかる場合,Dは時効完成前の第三者ということになるから,登記なくしてBは時効取得を主張することができる。
      6.  上記の時効制度の趣旨からすれば,さらに必要な時効期間占有継続すれば,それに法的保護を与えるべきでないと解する理由はないといえる。そして,時効取得者としては,原始取得により制限のない所有権を取得できるから,これを認めるべき必要もある。そのため,さらに必要な時効期間を経過すれば,これに基づき取得時効を主張しうる。したがって,Bは,Dに対して1995年から2005年の10年間なお甲の占有を継続したことにより10年の時効取得を主張することができると解する(162条2項)。
      7.  よって,Bは,Dに対して1995年から2005年までの10年の占有継続を主張して,取得時効を援用しこれを主張できる。なお,これは実質的にBに起算点を動かすことを認めるような形となり不当に思える。しかし,あくまで10年のさらなる占有継続を根拠とするから,起算点自体を動かすものではない。むしろ,継続的な事実状態に対する法的承認という時効制度の趣旨からすれば,このような法的保護を与えることにことそその存在意義があるといえる。
    3. 20年の取得時効(同条1項)を主張する場合
      1.  かかる場合,Bは,2000年において,20年の取得時効が完成したとして,Dに対し時効取得を主張するものである(162条1項)。これには,占有開始時の善意無過失は要求されない。
      2.  そして,Bがこれを主張するには,登記を要しない。なぜなら,Dは,1995年に現れた第三者でありこれはBの時効完成前であるため,上記の理由から,DはBとの間で対抗関係に立たないからである。
      3.  したがって,Bは,Dに対して登記なくして20年の占有継続により取得時効を主張しうる。かかる場合も,主観的要件において緩やかな20年の占有継続の場合をBが選択しさえすれば,Dに対して取得時効を主張しうる点,不当であるように思える。しかし,これも20年というより長い期間占有継続したことに対する高度の法的保護であるから,主観的要件が緩やかであるゆえに,その取得時効の主張が妥当でないというのはあたらない。

                                     以上

 

民法 第2問

  1. ①の反論について
    1.  Cの①の反論は,より具体的には,CがAに対する債権担保のために設定を受けた譲渡担保権という権利の法的性質が担保権であるため,本件建物の所有権を有するものではないから,建物収去土地明渡義務はないというものである。そこで,譲渡担保権の法的性質について,以下検討する。
    2.  そもそも,譲渡担保権というのは,所有権を法形式とし,占有を設定者の下に留め使用収益権限を残しつつ,交換価値を把握しておいて,処分権限の行使によりこれを実現しもって優先弁済権行使の私的実現を図る非典型担保物権である。このような担保物権たる位置づけから,Cの反論のいうように,その法的性質を担保権であると解することには一理あるといえる。しかし,これによって所有権が移転するものではないというのは,所有権という法形式を無視するものであって,妥当でない。登記簿上も,所有権移転登記としてなされ,単にその原因が譲渡担保とされるにすぎない。
    3.  上記譲渡担保権の概念からすれば,譲渡担保権者は,その設定により一応所有権を取得するものと解すべきである。もっとも,その目的は価値支配権ないし交換価値の私的実現による優先弁済権行使という債権担保目的にある。そのため,所有権移転の効力は,債権担保の目的の限度において認められるものと解される。すなわち,設定者は,被担保債権を弁済することによって目的物を受戻すことができ,他面譲渡担保権者は所有権を取得することから,実際上その処分権限の行使は否定されない。
    4.  したがって,譲渡担保権の法的性質は,所有権であるというべきである。そのため,Cは本件建物の所有権の移転を受けるものである。なお,これについて登記を経由していることから,土地の明渡について建物による占有が必然的に伴うものであり,土地の権利者が請求客体を確知するための基準の明確性の観点から,建物の収去義務を負うのはCということになると解する。このように,上記①のCの反論は失当であるといえる。
  2. ②の反論について
    1.  Cの②の反論は,より具体的には,Aの有する土地賃借権にもCの譲渡担保権の効力が及び,これに基づき土地賃借権がCに移転しているから,Cには占有権原が認められるというものであると考えられる。そこで,以下,Cの譲渡担保権がAの有する土地賃借権に及ぶか,そして,これにより土地賃借権がCに移転するかについて検討する。
    2.  まず,譲渡担保権が土地賃借権に及ぶかについてである。
      1.  この点,本件Cの譲渡担保権は,本件建物について設定されている不動産譲渡担保権である。これは設定者の下に使用収益権限が残存しており,目的物の価値支配権及び優先弁済権の実現を目的とする点において抵当権(369条)と共通する性質を持つといえるため,抵当権にかかる規定を準用して規律されると解される。
      2.  そうすると,譲渡担保権の効力は,「付加して一体となっている物」について及ぶ(370条本文)。ところが,土地賃借権は,賃貸借契約(601条)に基づく「権利」であって「物」ではない。そのため,370条本文の適用はない。
      3.  もっとも、譲渡担保権は,目的物の交換価値を支配し,所有権に内在する処分権限行使によりその私的実現を図るものである。そうだとすれば,権利であっても,これが目的物の交換価値を高める性質を持つものであれば,当然に譲渡担保権者はこれを交換価値に含めて,効力が及ぶものとしていると考えられる。特に,建物の譲渡担保の場合,建物抵当権において言えるように,土地賃借権が付着するものは一般にその交換価値を高めるものである。そうだとすれば,建物譲渡担保権者としては,これをいわば「従たる権利」としてその効力が及び,交換価値の対象となると考えているといえる。
      4.  したがって,土地賃借権についても,370条本文の類推適用により,建物譲渡担保権の効力が及ぶ。かかる点については,Cの反論は正当なものと言える。
    3.  ところが,譲渡担保権の効力が及ぶことと,効力が及ぶ対象が譲渡担保権者に移転するか否かは別次元の問題である。そのため,これについては別途検討を要する。しかし,譲渡担保権は,上記の通り,本来非占有担保権である。そのため,譲渡担保権の「債権担保の目的」のために占有権原たる土地賃借権を取得することまでは必要と言えない。あくまで,目的物の処分実行に際して,土地賃借権が付着する建物の,より高い交換価値の実現に資することが目的である。そうだとすれば,建物譲渡担保権者に移転する所有権の移転の効力としては,譲渡担保権者が目的物の占有をも取得する趣旨のものであるなどの事情がない限り,土地賃借権が当然に移転するものではない。
    4. 本件では,Cは譲渡担保権の設定を受けたが,本件建物の占有をも取得する趣旨ではなかったと解される。このことは,AがBに対して建物「退去」明渡請求をしていることからも裏付けられる。
    5.  ここで,譲渡担保権において,所有権移転の効力は,「債権担保の目的」の限度に限られるのであった。本来,土地賃借権は,建物所有目的の場合,通常当該建物の所有権の移転に伴い随伴して移転する。その根拠は,土地賃借権が土地上の建物所有による土地の占有を正当化する権原としての機能を果たす点にある。
    6.  したがって,Cは譲渡担保権の設定を受け本件建物の所有権を取得することにより土地賃借権の移転を設けるものではないから,かかる点においてCの反論は失当であると考える。
  3.  以上によれば,Cは,本件土地賃借権に基づく占有権原も有せず,本件建物について収去土地明渡義務を負うこととなるから,Bの請求は認められる。

                                     以上

平成30年度司法試験予備試験論文式試験の結果を受けて

 

こんばんは!かわしょー吉です。

 

今日,司法試験予備試験論文試験の

結果が公表されました。

 

HPで確認しましたが

ここまで手が震えたのは,初めてでした。

 

 

私の結果は,

 

 

 

 

ありがたくも,合格でした!!

 

 

 

”いい波”に乗ることができたおかげだと

思われてなりません。

 

そして,

支えて下さった方々への感謝が尽きません。

 

 

もっとも,戦いはこれからです。

 

口述試験まで

気を引き締め,足元を固め

準備を尽くし,戦っていきます。

 

 

なお,私が使っている

刑法の答案構成シートについても

 

ご好評を頂いており

今後も継続して,

無料で提供させて頂くことにしました。

 

詳しくはこちら↓

 

kawashokichi.hatenadiary.jp

 

 

もし

刑法が苦手だという方

あるいは

”型"を意識した答案の書き方

を身に着けたいという方

 

ご興味ありましたら,ぜひご登録下さい。

 

 

 

 

本棚紹介ー前置きとして

 

こんにちは!かわしょー吉です。

 

 

先日

Twitterでリクエストを頂きましたので

 

私の本棚紹介をしたいと思います。

 

 

f:id:kawashokichi:20180909173157j:plain

 

本棚といっても

司法試験の教材として使っている

テキスト等の紹介です。

 

ただ

今回の記事は

一旦その前置きとして

趣旨説明をしたいと思います。

 

中身は

後日連投していきます。

 

 

まず,

今回どのような基準で

本棚を公開しようか悩みました。

 

というのも

 

私はどちらかというと多読派で

司法試験を目指す勉強の過程で読んだ本

という基準で

全ての教材を公開しようとすると

 

読み疲れてしまうだろう

と思ったからです(笑)

 

また,

ただ教材を列挙するだけでは

あなたにとっても

私にとっても

 

あまり意味がありません。

 

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大事なのは

 

「なぜ,そのテキストを選んだか」

「どのように,その演習書を使ったのか」

 

ということです。

 

そして,私自身としては

 

これまでの司法試験を目指す道での

自分の足跡を振り返り

 

「そのテキストをどのように使ったか」

「その演習書を通じて得た効果はどのようなものか」

 

を改めて検証するとともに

 

どのように教材を活用していくことが

必要であるか

 

を考えるためにも有益であると思いました。

 

 

したがって

 

本棚紹介のテーマは

 

”私と対話し,法を授けてくれた恩書百選”

 

とします。

 

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コンセプトは

 

勉強の各段階における

基本書,演習書との付き合い方

 

とします。

 

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内容は,大きく次の4点です。

 

  1. 勉強の各段階で自分が使用していたテキスト
  2. 当該テキスト等を使った根拠
  3. 各テキスト等の使い方
  4. 得られた効果と客観的なレビュー

 

ちなみに,各段階は

 

①初学者(1年目から2年目)

②中級者(2年目から3年目)

③ロー入試から予備試験受験まで(4年目以降)

 

に区分します。

 

次回から

3回に分けてご紹介していきます!

 

 

ちなみに

”百選”と言いましたが

あくまで,私たちになじみのある

テキストをもじったにすぎません(笑)

 

そんなに書けないし

100まではいかないと思います。

 

 

それでは,また。

 

最後まで読んで頂き

ありがとうございました。